第16章 前夜は月夜の図書室で
「つきあう? マリウスの代わりに?」
「うん、駄目かな…?」
「駄目も何も、マリウスとつきあってないけど…?」
マヤのこの言葉に驚いたのはザックの方だ。
「それ本当なのか?」
うなずくマヤを見ながら、信じられないような顔をする。
「でも… い、いつも一緒にいたじゃないか」
……そうなんだけど…。
一緒にいた意味がマリウスと私とでは違っていたことを知ってから、まだそれほど時は経っていない。
それをザックに言っても仕方がないし、言うべきでもない。
「もっと前に…、訓練兵のときからつきあいたかったんだ。ぼ、僕だけでなく、他のヤツらも。でもマリウスの牽制がすごくて…」
「へ? え?」
「ショーンだけが引かなくてさ…」
「ショーン?」
……え! 何? 他のヤツらとかショーンとか話についていけない。
ショーンは訓練兵団の同期だ。対人格闘術でペアになることが多く、自然と話すようになった。
でも、それだけだ。
特別に好意を寄せられた覚えは全然ない。
「首席を取った方がマヤのそばにいるって取り決めて…」
……何よ それ…。
「け、結局マリウスが苦手な座学を克服して首席だっただろ?」
「……うん」
……確かに急にマリウスが空いている時間をみつけては勉強している時期があった。
めずらしいわね、雨が降るかもとからかえば、うるせーな! 人の気も知らないでと怒っていた。
………。
そんなことが裏であったなんて…。
「ショーンは2位でマリウスとの約束を果たし、何も言わずに憲兵団に行ったんだ」
「……そうだったの。全然知らなかった」
「だ、だからてっきり僕は…、いや僕たちは君とマリウスがつきあってるものだと…」