第16章 前夜は月夜の図書室で
「うん…。マヤ…、君はマリウスと一緒だったね。いつも…」
下を向いたまま、ぼそぼそと話すザック。
「マ、マリウスはいつも言ってただろ? 君を守るって…」
「……うん。そうだね…」
「だから…。あ、いや、こんなときに悪いとは思うんだけど…!」
マリウスの話が見えてこない。
「マリウスが死んだからって訳じゃないんだけど…。今まで何度も言おうとしたんだ。でもマリウスがいるから言えなかったんだけど…」
そこで黙ってしまったマリウスを、マヤは辛抱強く待った。
数分は経った気がする。
やっとマリウスは口をひらいた。
「……駄目かな?」
「ん? 何が?」
「だから…、僕じゃ駄目かな?」
ますますマリウスが何を言いたいのかわからず、マヤは苦笑いをした。
「ごめん、なんのことか… ちょっとわからないん…」
マヤの言葉が終わらないうちにザックは顔を上げて叫んだ。
「マヤのことが好きなんだ!」
「………」
あまりの驚きに、えっという声すらも出なかった。
目の前で真っ赤になって両目を閉じているザックに対して、何か言わなくちゃと思うのに言葉が出てこない。
数回ぱちぱちと瞬きをして唾をごくりと飲みこめば、少しは何かこの場にふさわしいことを言える気になった。
「……ありがとう」
その瞬間に目を見開いたザックの顔は、喜びに満ちていた。それを目にして慌ててつけ加える。
「あ、でもザック、マリウスはなんの関係があるの?」
「それは…。マ、マリウスの代わりにつきあえないかなと思ってるんだけど…」
今度はマヤが目を丸くする番だった。