第16章 前夜は月夜の図書室で
今はマリウスの気持ちを知っていても、もう応えることはできない。
もしもっと早くに知っていたならば…?
何か二人の関係に変化があったのだろうか…?
……わからない。
何もわからないけれど、ひとつだけ確かなことはマリウスはもういないということだけ。
「……マリウス…」
優しい光を放つ月に亡き友の面影を重ねたマヤは、気づけばその名を口にしていた。
ごめんね… マリウス。
あなたが私のことを愛しているだなんて思いもしなかった。好きだと言ってくれるのは、てっきり罪滅ぼしなのかと。
だって、そうでしょう? まさかあなたが私のことを…。
「マヤ!」
名を急に呼ばれ、追憶は途切れた。
振り返ると、今来たばかりの様子でザックが立っている。
「ごめん、遅くなって」
「ううん、大丈夫」
「こ、こんなところに呼び出してごめん」
「あ、うん。お昼は話せなかったもんね。……そうだ、ランプ持ってくるね? 月を見ようと思ってつけなかったの」
マヤはそう言いながらも、どうしてザックは明かりを灯さなかったのかな? と思った。
入り口のそばの壁際に吊るされてあるランプを取りに行こうとマヤが一歩動くと、ザックは慌てて引き留めた。
「いや! いいんだ、このままで!」
「え?」
ザックの声が思いがけず強いものだったので、驚いたマヤはかたまってしまった。
「あ! ほ、ほら… 月が明るいから君の顔もよく見えるし…」
「へ? あ… あぁ、そうね…?」
顔がよく見えるという言葉につられてザックの顔に視線をやれば、赤くなって目を伏せていた。
……なんで赤くなってるんだろう?
変だなと思いつつ、マヤは訊いた。
「それで…、マリウスの話って一体なんなの?」