第16章 前夜は月夜の図書室で
図書室のランプには火が灯されていなかった。それでも大きな窓からさしこむ月光により、室内は思いのほか明るい。
……まだ来てないか…。
扉を後ろ手に閉めながら、少しの間考える。
……月を見たいから、ランプはつけなくていいや。
そのまま奥に進み、窓辺に立つ。
私室で想像したとおりに、大きな一枚ガラスの窓から見上げる月の美しさは格別だった。
青灰色の空に浮かんだ初夏の月は、どこか涼しげで。見上げるマヤの頬をやわらかく照らした。
……こんなに綺麗な月を見られて、それだけでもここに来て良かった…。
それにしてもマリウスの話ってなんだろう?
ザックは私やマリウスと同じ西方訓練兵団所属だったけれど、その当時も調査兵団の今も、特別にマリウスと仲良くしていたという覚えはない。
よく行動をともにしていた幼馴染みの私よりも、マリウスのことを知っていたとは思えない。
それなのに一体どういった話なんだろう?
もしかしたら男子同士だし、女子の私には入りこめないような話題でもあったのかしら?
そうかもしれないわね…。
マヤは一旦、ザックがここに来たら話すであろうことへの疑問に区切りをつけた。
また月を見上げる。
今考えていたマリウスの顔が、月と重なって見えた。
陽気でいつも皆の中心に自然となるようなマリウスは、燦々と輝く太陽のようだったから静かな月とは正反対だ。
ずっとそう思っていた。
でも “マヤへ” と書かれたあの手紙。
書き出しは、“マヤがこれを読んでるってことはオレは死んだんだな…” のあの手紙。
その中身は優しさがあふれていて。
そっと見守ってくれていたんだと。
幼かったあのころから、ずっと愛されていたと初めて知った。