第16章 前夜は月夜の図書室で
後輩の新兵が出ていったあと、大浴場を見渡したが特に親しくしている人はいなかった。
髪と体を丁寧に洗い、湯船に浸かる。ちょうど空いていたのでいつも入る左奥の角あたりだ。
……やっぱりこの場所が落ち着くなぁ…。
お気に入りの角っこで膝を抱えて座っていれば、いつものように睡魔に襲われる。
このまま眠ってしまいたい…、そう思いまぶたを閉じたが微睡む意識のどこかでふと、冷静な自身の声が頭の中で聞こえた気がする。
……寝たら約束の時間に遅れちゃう。
髪をきちんと乾かしたいし、眠っちゃ駄目だ。
マヤは目を開けるとぱしっと頬を叩き、眠気を吹き飛ばした。そしてそのままの勢いで、ざばーっと湯船から上がった。
部屋に帰ってきてからは、ずっとベッドに腰をかけたまま。
傷めないようにやわらかなタオルを軽く押し当てるようにして、髪を乾かしていく。
もうほとんど乾いているが、約束の時間までまだ少し余裕があって時間つぶしのようにタオルをもてあそんでいた。
……少し早いけど、もう行こうかな。
先ほど大浴場の帰りに見上げた月は大きく輝いていた。きっと待ち合わせ場所の図書室の窓からの月は素晴らしいに違いない。
ここでこうやって手持ち無沙汰にしているよりも、大きな窓の図書室から月を愛でた方がいい。
そう考えマヤは、昼にザックに告げられた図書室に向かうべく部屋を出た。
図書室は一般棟の三階にある。位置としては食堂の真上だ。階段を上がり三階に踏み入れると、想像していたより薄暗く静まり返っていた。
資料室の前を通り過ぎ、図書室の扉に手をかけた。
……ザック、もう来てるかな?