第16章 前夜は月夜の図書室で
「本当に私は愚かだったよ。マヤのおかげで目が覚めた!」
勝手に感動してハンジは叫んだ。
「この装置の名前は “対特定目標拘束兵器” に決定だ! もちろん(仮)は外す。そして全力で開発してやる! いいね? モブリット!」
「異存はないです、分隊長」
「よし! では…」
ハンジは白い布を対特定目標拘束兵器にかけると、ぽんと両手を叩いた。
「捕獲網を荷馬車に積もう。マヤ、手伝ってくれ」
「はい!」
小柄なマヤが抱えると前方が見えなくなるほど大きな捕獲網を、倉庫から持ち出した。格納庫に入るとずらっとならぶ荷馬車にはすでに、明日の壁外調査の準備がなされ様々な物資が積みこまれている。
ハンジとモブリットはそれらの荷馬車の脇を通過し、格納庫の奥に置かれている荷馬車までまっすぐ歩いた。マヤは捕獲網を抱えながら、遅れないようについていくのに必死だ。
「これだね!」
威勢の良いハンジの声が格納庫に響く。つづいてドサッ、ドサッと捕獲網を荷馬車に放り投げる音もした。
やっと二人に追いつき同じように、抱えていた捕獲網を荷馬車に積む。
「これで準備完了! さぁ出ようか」
「「はい」」
三人は格納庫を出て、兵舎へ向かう。一般棟まで来たところで、
「私とモブリットは執務室へ帰るよ」
となぜか手を差し出すハンジ。マヤは反射的に握り返した。
「ありがとう、マヤ。対特定目標拘束兵器の名前も決まったし、マヤが我々と同志だとあらためて実感できたし、今とても晴れ晴れとした気分だよ。また機会があったら協力してくれるね?」
「もちろんです」
「じゃあここで。明日はよろしく」
ハンジにつづきモブリットもマヤに声をかけた。
「マヤ、今日はよく休むんだよ」
「はい、モブリットさん。ありがとうございます」
頭を下げたマヤの手を優しく離すと、ハンジはひらひらと手を振ってから幹部棟へ行ってしまった。モブリットが急いで追う。
その背中を見送りながらマヤは、切っても切れない深い二人の絆を感じ胸に温かいものがじわっと広がっていくのを感じた。