第16章 前夜は月夜の図書室で
……もう夕方か…。
部屋に戻って片づけてから、ごはんとお風呂にしようかな。
ペトラとオルオは買い物から帰ってきてるかな? でもいつも夜遅いし、今日はもう会えないかもね。
マヤとペトラは三回目の壁外調査を迎えるときから、壁外調査前日に約束してまでは会わないようにしていた。
調査兵団に入団して一か月経って直面した壁外調査前夜。
マヤとルームメイトのクレア、そしてペトラとルームメイトのアンネの仲良し四人組はマヤの部屋に集まった。
……明日死ぬかもしれない…。
その得体の知れない恐怖が新兵四人を襲う。少しでも平常心を保とうとして四人の娘が取った方法は、互いに寄り添って励まし合うこと。
重苦しい空気の中、誰かひとりが話し始めると次から次へと。
「エルヴィン団長はあんなこと言ってたけど、大袈裟なだけだよね…?」
「……5割死ぬってやつ…?」
「そんなの新兵の度胸を試しただけだって! この一か月訓練してきたんだから大丈夫」
「そうだよね! 訓練どおりに…、先輩の言うとおりにやっとけば大したことないんじゃない?」
「だよね~。帰ってきたらお疲れ会やろうよ!」
「いいね! 賛成~!」
だが二度と四人が顔を揃えることはなかった。アンネが巨人に食われたからだ。
二回目の壁外調査の前夜もペトラ、クレア、マヤの三人は約束をして部屋で顔を突き合わせた。
そして今度こそ大丈夫、頑張ろう、帰ってきたら…と励まし合ったが、クレアが死んだ。
………。
それ以来、ペトラとマヤははっきりと互いに口にしてはいないが、壁外調査前夜にわざわざ会って励まし合うことはやめた。
会えば… 壁外調査への恐怖や不安を共有し合えば、命を手放してしまう…。そんなジンクスのようなものに思えたからだ。
だから今日もわざわざ会わない。
マヤはそう思い、部屋に帰ろうとしたが。
「……お手洗いに行こうっと」
つい声に出てしまった。
……生理現象には勝てないものね。
食堂と談話室のならびにある便所に向かった。