第16章 前夜は月夜の図書室で
当時を思い出し口をへの字に曲げたハンジは、隣にいるマヤが黙ってうつむいているのに気づいた。
「大丈夫だって! 今回はミケがいるから百人力!」
モブリットも同意する。
「確かに最初からミケさんがいるってのは心強いな」
「はい、頑張ります!」
と元気に言ったはいいが、少し首をかしげてつけ加えた。
「……と言っても、何をしたらいいかよくわかってないんですけど…」
「そうだね。今から簡単に説明しよう」
ハンジの眼鏡の奥が、理知的な光できらりと鋭く。
「マヤには、おとりをやってもらいたい」
「おとり… ですか」
「うん。7m級までの巨人が二体まで出現した場合にのみ、捕獲対象とみなすんだ。単独出現ならそのままでいいけど、二体だとまず片方… どちらでもいいけど状況に応じて仕留める。一体にしたところで、おとりが対象巨人の気を引く。そして脚を切って倒したところへこの捕獲網の出番だ」
ハンジは目の前に置いてある捕獲網を手に取った。
捕獲網には立体機動装置と同じアンカーがついたワイヤーの射出装置が付属している。
「このトリガーを引くとワイヤーが射出され飛んでいってる間に網がバッとひらく仕組みだ。アンカーを巨人の体に突き立てて網を覆いかぶせる!」
ハンジの瞳は今まさに巨人を生け捕りにしたかのように、めらめらと燃え上がっている。
「網で全身の動きを封じたあとは、杭を打ちこみ拘束する!」
その勢いのままマヤに訊く。
「マヤ! 君は立体機動での高速移動が得意だと聞いたが…?」
「えっ、まぁ はい、そうです」
「じゃあやっぱりマヤは、おとりが適任だ。ケイジと一緒におとりをやってくれ。そしてミケが脚を切って私とモブリットで捕獲網を仕掛ける。網は少々コツがいるので、慣れた者でないとできないしね」