第16章 前夜は月夜の図書室で
倉庫の奥の棚から捕獲網を取り出してきたモブリットは、作業台の上にどさっと投げ出した。
「分隊長、あと幾つ出しましょう?」
「うーん、二つお願い」
丸めてある状態でもかなりの大きさで、モブリットは一つずつしか運べない。
「……これが捕獲網ですか…」
初めて見る巨大な網の塊に興味津々のマヤ。
「そっか、捕獲班に初参加どころかそもそも捕獲班の活動を目にしたことがないんだね、マヤは」
「ええ、そうです。確か新兵のころ、二回目の壁外調査であった気がするけど…」
「そうだね、去年のちょうど今頃。あのときは対象巨人がなかなか現れなかったんだ。それでやけを起こした分隊長が遭遇した奇行種を捕獲しようと躍起になって大変だったよ」
捕獲網を運びながらモブリットが苦笑いする。
「やけなんか起こしてないよ! 至極真面目に捕獲しようとしただけさ」
「……奇行種ですか…」
予測もつかない突拍子な行動をしてくる奇行種を捕獲しようとするなんて、さすがハンジさんと心の中でマヤは思う。
「それで皆さんは大丈夫だったんですか?」
入団してから巨人が捕獲された事実はないので失敗に終わったのはわかっているが、捕獲班のメンバーが無事だったのかどうかが気にかかる。
「ケイジが捻挫しちゃったけど、それで済んだよ。奇行種でなくても捻挫くらいするからね、奇行種のせいじゃないよ」
奇行種捕獲を正当化したいハンジがさらっと答えると、三つすべての捕獲網を運び終えたモブリットが苦言を呈した。
「あのときはリヴァイ兵長が来てくれたからケイジは捻挫で済んだんですよ、忘れないでください」
「やだな、忘れる訳ないじゃん。いつまでもしつこく対象巨人外の奇行種に手を出すなんてクソメガネが!とかなんとか言われてさ!」