第29章 カモミールの庭で
マヤは訳がわからない。
……別にって言うけれど、絶対何か怒ってるじゃない…。
どうして?
せっかくリックさんとイルザさんの想いが通じたのに。兵長だって “爺さんのためにひと肌脱ぐか” って言っていたのに。
うまくいって嬉しくないのかな?
喜んでいるのは私だけなの…?
考えていると、どんどん悲しくなってくる。
じわりと涙がにじみそうで、慌てて下を向く。
談話室には気まずい空気が流れた。
その状況にリヴァイも黙ってはいるが心の中で、いろいろと思案している。
……マヤは何を考えている。
急に黙ってしまって、うつむいて。
かすかに見える眉は悲しそうに寄せられている。
……泣いているのか?
まさか。
さっきまで嬉しそうにしていたじゃねぇか。
“レイさんレイさん” とうるさいまでに。
……チッ、一体なんなんだ。
リヴァイもこういう状況になったことが理解できずに、しびれを切らしてマヤに訊いた。
「おい、どうした?」
「……別に、なんでもないです」
今度はマヤが “別に” と答えた。
「……あ? なんでもねぇ訳がねぇだろ」
放ったリヴァイの声が尖っていて、マヤはますます顔を上げられなくなる。
……もう駄目、耐えられない。
マヤが立ち上がって “やっぱり帰ります” と言おうとした矢先に。
「あ~あ! 今のはリヴァイが悪い!」
唐突にハンジが入ってきて、マヤは飛び上がらんばかりに驚いた。
「ハンジさん! えっ、何?」
「ごめんよ、びっくりした?」
マヤに謝りながらも颯爽と入ってくるハンジの後ろには当然のごとくモブリットもいる。
「おいクソメガネ、どういうことだ」
最大限に眉間に皺を寄せているリヴァイを見て、モブリットがハンジにささやく。
「だから盗み聞きなんてやめようと言ったんです、俺は!」
「盗み聞きだと?」
リヴァイの不機嫌が今日一番のボルテージで、今にも爆発しそうだ。
「やだな、盗み聞きなんて人聞きの悪い。ちょうどリヴァイ班が出てきたところに遭遇してね、中にリヴァイとマヤの二人きりだって言うからさぁ、ちょっと談話室に入るタイミングをはかっていただけじゃないか!」