第31章 身は限りあり、恋は尽きせず
……陰気なところね…。
とてもではないがこの森が、名湯イカホのある山に通じているとは思えなかった。
………。
マヤは先を行くリヴァイの背中を見据えながら、疑問に思う。
……てっきり景色の良い素敵なところへ行くのだと思っていたけれど、違うのかしら?
おつきあいするようになってから初めての遠出であり、初めての二人だけの、プライベートの旅行である。それがこのような暗い森に入るなんて、思ってもみなかった。
……兵長のチョイスって、もしかしてちょっと変わってる…?
そのとき懐かしい友の声が聞こえた気がした。
“調査兵団なんて変人の巣窟じゃない!”
ふふ、リーゼはいつもそう言うの。
そのとおり、調査兵団は変わり者ばっかり。
リヴァイ兵長にミケ分隊長、ハンジ分隊長…の顔が浮かんだところでマヤはふと思う。
……エルヴィン団長って唯一まともに思えるけど、なんといっても調査兵団の団長なんだもの。変人の巣窟の親玉よ? もしかして私がまだ知らないだけで相当な変人なのかしら…?
金髪碧眼の意志の強そうな顔が浮かんだそのとき、オリオンが大きく右に曲がった。
森の奥に進むにつれてますます陽はささなくなり、陰鬱さが増してゆく。
走る獣道には先ほどまではわずかにあった下草もなくなり、苔とシダに覆われている。
ひんやりと冷たく頬を切る風を感じながら、マヤは心の中で友に語りかけた。
……リーゼ、初旅行でこんなところへ連れてくるリヴァイ兵長は、やっぱり相当な変わり者よ。そんな兵長のことが誰よりも好きな私ももう、きっと立派な変人ね。
またリーゼの声が聞こえる気がする。
“何言ってるの、マヤはとっくに変人だよ。だって真面目オバケなんだから!”
「ふふ」
ひとりで頭の中でリーゼと会話していたマヤは、思わず声に出して笑ってしまった。
ほどなくしてオリオンの速度がみるみる落ち、やがて静かに止まった。
アルテミスも歩みを止めると、静かにリヴァイが振り返った。
「どうやら行き止まりらしい」
リヴァイが指し示した方向には原生的なシダが繁茂し、そこはまるで森のカーテンの様相を呈していた。
これ以上先には、もう一歩も進めないように見えた。