第31章 身は限りあり、恋は尽きせず
「ラドクリフ…」
リヴァイは花好きの同僚の丸い顔を思い浮かべた。
「はい、ラドクリフ分隊長。ちょうどミケ分隊長もいて、すぐにポケットにドクダミを入れてるって見抜いたの」
「……だろうな」
乾燥しているとはいえ匂いの強い草だから、ミケにとっては朝飯前であろう。
「ヘングストさんにアルテミスが船酔いした場合のためにもらったって言ったら、ラドクリフ分隊長がドクダミについて語り始めて…」
花博士のラドクリフが嬉々としてドクダミについて講釈を垂れるのが、目に浮かぶようだ。
「クロリス…、ラドクリフ分隊長の馬ですが、そのクロリスはドクダミが大好物で、道端で見つけてはむしゃむしゃ食べるそうです」
「そうか」
「だからアルテミスが船酔いじゃなかったとしても、ドクダミはいくら食べても大丈夫なので」
「ラドクリフのお墨付きなら間違いねぇな」
「そうなんです!」
嬉しそうに笑って白い歯をみせるマヤを、リヴァイは目を細めて見ている。
「それからドクダミの花言葉は “白い追憶” らしいです。素敵だわ」
「なんにでも花言葉はあるんだな」
「そうですね。お花屋さんに売っているお花だけではないんですね、花言葉って」
そんな会話をしながらリヴァイとマヤはイカホに向かっている。
オルブド区で下船してから、少し体調が悪そうに見えたアルテミスにドクダミを与えてから、ゆっくりな歩調で。
アルテミスを気遣っての速度だったが、どう見てももうすっかりアルテミスの調子は良さそうだ。
平地の草原をずっと進んできたが、こんもりとした森が遠くに見えてきた。その森のうしろには青い山がそびえている。
リヴァイはまっすぐその森に向かっている。
「アルテミスも元気そうだし速度を上げるぞ、いいな?」
「大丈夫よね、アルテミス?」
ヒヒーン!
勢いのあるいななきとともにマヤはアルテミスに身をゆだね、風となって森に飛びこんだ。
すぐにマヤは、その森の持つ独特の陰鬱さに気づいた。
森を形成している樹木は巨大樹のような大きなものではなく、ごく一般的な杉の木だが、驚くべきはその密生度だ。
まさに乱立しており、枝葉がいくえにも重なり、日の光が地面に届かない。
そのためか杉の木以外の樹木や雑草が極端に少なく、走る獣道はじめじめとしている。
