第29章 カモミールの庭で
とりあえずはやっと二人きりになれたのだし、マヤは無難な言葉を口にしてみる。
「リックさんとイルザさんのこと、リヴァイ班のみんなに直接話せて良かったです。リックさんが紅茶をごちそうしたいって言っていたのも伝えられたし…」
「あいつらを連れていくのはかまわねぇが…」
リヴァイが顔をしかめている。
「……何か問題でも?」
「他に客がいないときじゃねぇと席がないだろうな…」
「あぁ、そうですね。六人ですものね、座れるのは」
マヤはカサブランカの喫茶室を思い出した。三つあるテーブルにそれぞれ二脚ずつの椅子。
「でも… もし他のお客さんがおひとり様だとしたら、ぎりぎり座れるんじゃないですか? 兵長とリヴァイ班で五人だから」
「いや、マヤも行くから六人。だから他に客が一人でもいたら座れねぇ」
「私も行くんですか?」
「当り前だろうが…。不服か?」
「そうじゃないですけど、リックさんからのお礼なら今日レイさんと一緒にいただいたから…」
リヴァイの眉間がピクリと動いた。
「レイモンド卿と…」
「はいそうです、レイさんと。とっても美味しいダージリンをごちそうになりました。そればかりか結局最初に注文したオリジナルブレンドとスコーンも、リックさんは “お代をいただく訳にはまいりませぬ” とただにしてくれて…。レイさんが買い取ると言った分まで受け取らないと言い出して」
マヤはそのときのレイとリックの押し問答を思い出して微笑んだ。
「リックさんがどうしても紅茶のお代もお店の買い取り料も要りません、これはお礼だからと言ってきかなかったんです。オレの立場はと頑なに支払おうとしていたレイさんも最後には折れて、お二人は強く握手していました。すごくいい光景で、それを見ていた私とイルザさんも最高に幸せな気持ちになれて…。本当にレイさんが、リックさんとイルザさんを再会させる計画を考えてくれて良かった。兵長もそう思うでしょう? レイさんのおかげだって」
「あぁ、そうだな…」
あれ? とマヤは気づく。作戦が大成功をおさめたのに、目の前のリヴァイは不機嫌そうだ。
「……どうしたんですか? 顔色が悪いですけど…」
「別に」
ふいとそっぽを向くリヴァイの機嫌は、明らかに相当悪い。