第29章 カモミールの庭で
「……タイミングをはかっていた? 随分とてめぇに都合のいい言い方をするもんだな…、変態クソメガネが!」
リヴァイが青すじを立てようがハンジは全く気にしていない。
「何を怒っているんだい? 見当違いも甚だしいね、リヴァイには礼を言ってもらいたいくらいなのにさぁ!」
「……礼…? とうとう完全にイカレちまったか。なんでコソコソと盗み聞きしていたやつに俺が礼を言わなきゃならねぇんだ」
「だって私とモブリットが談話室の入り口で身を挺して、他の人の談話室侵入を防いだんじゃないか。そのおかげでリヴァイは可愛い可愛いマヤと二人きりの甘い時間を過ごせるはずだったのに…」
ハンジはそこまで話すと、いやぁ馬鹿だねぇ~といった調子で首を左右に大げさに振ってみせた。
「嫉妬深い性格のせいで、せっかくの二人の時間を台無しにしちゃってさぁ…。マヤ、リヴァイの八つ当たりの不機嫌モードに当てられて可哀想に。大丈夫かい?」
「えっ! あっ、はい… 大丈夫です…」
急に話を振られてどぎまぎしてしまったマヤだったが、今ハンジの言ったことを必死で考えている。
……八つ当たり、嫉妬深い…? 兵長が…?
純粋にリックとイルザの再会を喜んでいて、それ以外には何ひとつ余計な感情はないマヤには想像もつかないことだった。
「ホントにリヴァイのジェラシーには困ったもんだよ。今さっき聞いていた限りでは、マヤにはレイモンド卿に対する甘い感情なんか一切ないってのにさ、勝手に不機嫌になっちゃって。モブリットも気をつけた方がいいよ。うっかり任務でマヤと組むことにでもなったら、一生リヴァイに恨まれる可能性大だね」
その瞬間にじろりとリヴァイに睨まれて生きた心地がしないモブリットは、ハンジに苦情を言うしかない。
「勘弁してください、分隊長…」
「あはは、ごめんごめん。今のリヴァイの顔、怖かったねぇ! ただの仮定の話なのにマヤを他の男に盗られた気になっちゃったんだろうね、リヴァイは。よく考えたらそれってある意味可愛いかも? どう思う、モブリット?」
「だから俺を、これ以上巻きこまないでくださいよ…!」
モブリットの悲痛な叫び声が、談話室に響いた。