第29章 カモミールの庭で
普段は優しいルチアがキレている。
マヤの父親のジョージは、すっかり叱られた子犬のようにしゅんとして、声の大きさまで小さくなってしまった。
「……デイブが店番してる」
「デイブさん? どうしてデイブさんがうちの店番をしているのよ!?」
「……それはデイブが教えに来てくれたんだ。マヤが男と二人で店の前を通りすぎたって! デイブも慌てふためいていたしよ、俺もこれは大変だとびっくりしちまって…。ちょうど客もいなかったし、ちょっとデイブに店を見てくれと頼んでこっちに来てみたんだ」
「デイブさんだってデイブさんのお店があるのよ? さぁ店に戻ってデイブさんには帰ってもらって。もうこんな時間だし、お店は閉めてきてちょうだい。詳しい話はそれからです。いいわね!?」
ルチアに命じられて、ジョージはちらりとリヴァイとマヤの方を見て何か言いたさそうに口を少しひらきかけたが、すぐに思い直して何も言わずに店舗の方に戻っていった。
「リヴァイ兵士長、お見苦しいところをお見せして申し訳ないですわ。あの人はマヤのことになるとすぐに頭に血が上ってしまって…。本当に大変失礼なことを申しました」
「いや別に…」
「主人の紅茶を淹れるまで時間がかかりそうなので、何か他に飲むものを持ってきますね? 何にしましょうか」
「……では水を」
「すぐにお持ちしますね」
ルチアが姿を消すと、マヤはすぐに謝った。
「兵長、すみません…。父がとんでもなく失礼なことを…」
「気にしてねぇ。マヤをそれだけ心配しているってことだからな」
「それは、そのとおりで…。どうしよう、なんかつきあってるって言い出しにくいですね…」
「……そうだな…」
その静かな声色にマヤがハッとしてリヴァイの顔を見れば、深く考えこんでいるような様子だ。
……兵長はもう、うちの親に私たちのことを言わないのかもしれない…。
そう思うと淋しい気もしたが、また先ほどのように父親が騒いでも困るので、それはそれで仕方ないとマヤは思った。