第29章 カモミールの庭で
「お母さん、キルト完成したのね!」
マヤがソファのカバーのパッチワークキルトを目にして、すぐに叫んだ。
それは藍色と白の市松模様で、夏らしい爽やかな出来上がりだ。
「そうなのよ。次は秋に向けて紅葉色のを作ろうかと思ってるんだけど…。赤にするか黄色にするかで悩み中…」
ルチアは自身の趣味であるパッチワークの話で声を弾ませていたが、すぐに客人がいることを思い出した。
「あら… ごめんなさい、リヴァイ兵士長。立たせたままで。どうぞお座りになって。すぐにでもお茶を淹れて差し上げたいのですが、うちは主人の方が上手でしてね」
「……紅茶屋…」
つぶやいたリヴァイの言葉を嬉しそうに拾う。
「そうですの、なんてったって紅茶屋のマスターですから、主人は。呼んできますので、お待ちになってね」
そして紅茶屋の店舗に通じる廊下の方へ行こうとした矢先に、ドタドタと大きな足音が近づいてきたかと思ったらマヤの父親が血相を変えて飛びこんできた。
「マヤ! 男と帰ってきたって本当か!」
「あなた!」「お父さん!」
ルチアとマヤの叫びは無視して、父親はリヴァイを見つけるとさらに猛々しく。
「こいつか! おい、うちの娘と一体どういう関係なんだ!?」
今にもリヴァイの真っ白のクラバットに掴みかかりそうな勢いだ。
「ちょっとあなた、落ち着いて!」
「ルチア! お前も何を考えているんだ! ほいほいと簡単に、どこの馬の骨ともわからんやつを家に入れて!」
登場してからずっと怒鳴り散らしている亭主に、優しそうなルチアの雰囲気がぶちっと切れたように変化した。
「……ほいほいって何かしら? 私が入れたのではないですわ。この方はマヤがきちんとご招待して連れてきたのです。それにリヴァイさんは馬の骨なんかじゃありません! 兵士長でいらっしゃるのよ! 大体私があなたを呼びに行こうとしていたのに勝手に怒鳴りこんできて! お店はどうなっているの!?」