第29章 カモミールの庭で
表通りには紅茶屋の店舗の出入り口である扉があり、こちらの裏通りには住居に直接通じる勝手口のような扉があるのだ。
「やっぱり開いてます」
「不用心だな」
「昼間は誰も鍵なんかかけませんよ、クロルバでは…」
扉を大きく開け、リヴァイを招き入れる。
「ここはトロスト区に比べたら同じ突出区だけど、すごく田舎です。お店の数だって全然違うし…。ヘルネと比べても、ヘルネの方が栄えてるもの…」
「確かにヘルネの方が、店の数は圧倒的に多いな」
リヴァイは先ほど目にしたクロルバの街並みを思い浮かべて、相槌を打つ。
「そうでしょう? パン屋さんだってヘルネには二軒あるけど、クロルバには一軒だけ…」
「マヤ?」
リヴァイとマヤの話し声に気づいたマヤの母親が、家の奥から出てきた。
「お母さん!」
「いつ帰ってきたの?」
「たった今よ」
二人は手を取り合わんばかりに再会を喜んでいたが、ふと母親がマヤの背後のリヴァイに気づいた。
「そちらの方は…?」
「あぁ… あの、この人は…」
とうとう親にリヴァイ兵長を紹介するときが来た。マヤは緊張で言葉に詰まる。
「リヴァイ兵長です…」
「まぁ! あの有名なリヴァイ兵士長?」
どうやらマヤの母親もリヴァイを知っているらしい。
「娘がいつもお世話になっております。マヤの母のルチアです」
笑った顔がマヤによく似ていると思いながら、リヴァイも挨拶をする。
「リヴァイです。突然押しかけて申し訳ない…」
「いえいえ、いつでも大歓迎ですよ。さっ、何もない狭い家ですがどうぞ」
ルチアはにこやかに、家の奥へと案内する。
いくつか閉まっている扉の前を通過して、リビングに着いた。
こぢんまりとしているが、清潔感のある部屋だ。パッチワークキルトのタペストリーが壁に飾られている。ソファのカバーもパッチワークだ。