第29章 カモミールの庭で
ナダルの様子が気に入らないリヴァイだったが、とりあえずは眉間に皺を寄せただけでぐっと我慢した。
「……で、この図体のでけぇ馬は連れかい…? 同期?」
馬上の人が誰であるかろくに確認もせずに、ナダルはのんきに質問してしまった。
「あっ、はい…。その…」
ナダルがリヴァイ兵長に気づいていないことに困ったなと思いながら、マヤは答えた。
「……リヴァイ兵長です…」
「ふ~ん、リヴァイ兵長ね…、えっ! リヴァイ兵長!?」
慌ててオリオンの上のリヴァイを見上げる。
そしてリヴァイの姿を確認すると、元々どんぐりまなこの童顔な男ではあるが、目いっぱいに見開いた。
「うわぁぁぁ! 申し訳ございません! 少々寝ぼけていまして…、いや寝ぼけてません! 居眠りなんてもってのほか! 毎日任務を寝ずにきっちり完遂しておりますからして! わざわざクロルバくんだりまでご苦労様です! こ、この馬も大変ご立派な可愛らしい馬でして! ど、同期と言ったのは、へ、兵長が若々しく見えるからでして決して!」
「……決して…?」
「あぅぅぅ」
……決してチビでツルンとした顔だから若造に見えたからではありませんなんて言えねぇ!
言ったら殺される。言ったら兵団クビになる。
あっ、殺されるのが先だからクビにはならねぇか…。
混乱した頭でナダルは、ぼんやりと処分の順番を考えている。
「……まぁいいだろう。通せ」
「はっ! どうぞお通りください!」
平身低頭、まるでコメツキバッタのようにへこへことお辞儀をしまくっているナダル。
……ナダルさん、そこは敬礼の方がいいのでは…。
マヤは内心でそう思いながら、ナダルの横を通りすぎる。
「マヤ、まずはお前の家へ行こうか」
「はい、こっちです」
マヤとリヴァイはそれぞれ馬に乗ったまま、ゆっくりと街の中心部に向かって消えた。