第29章 カモミールの庭で
「背の低いところも、目つきの悪いところも! やっぱ新聞に載るような似顔絵師は、特徴を捉えるのがうまいんだね!」
悪気がない女性店主の言葉が、リヴァイにぐさぐさと矢になって刺さっているように見える。
……兵長に新聞の似顔絵の話をしちゃ駄目なのに…!
マヤはこれ以上の長居は無用と立ち去ることに、心を決めた。
「あの…! 本当にありがとうございました。失礼します!」
やや唐突に立ち去っていくマヤとリヴァイの後ろ姿に、女性店主は嬉しそうに手を振って見送った。
「もしまた来るんだったら、今度はうちの店に寄っておくれよ~!」
村を出てオリオンとアルテミスをつないだ樹のところへ戻ってきた。
「……よくしゃべる店主だったな」
「あはは…。でもおかげで色々とわかって助かりました」
「それはそうだな。ザックの親御さんの居所は、店主の言うように兵団に届く手紙を待つしかねぇだろうな。ただ…」
リヴァイは考えあぐねている様子だ。
「どうかされましたか?」
「ザックへの手紙を本人の許可なく開封できるかどうかなんだが…」
「でもザックは亡くなっているし…」
「あぁ、だから恐らく問題はねぇとは思うが、エルヴィンに任せるか…」
「そうですね…」
「ここで今、悩んでいても仕方がねぇ。ザックの件は一旦保留だ。次に行くぞ」
「はい!」
次はいよいよ、マヤの故郷のクロルバ区だ。
リヴァイとマヤの二人は、わざわざ言葉にはしなかったが互いに胸にふくらんでくる期待でいっぱいになって笑みがこぼれる。
「もう急ぐ必要はねぇな。ゆっくり行こう」
「そうですね、さっきは景色を楽しむ余裕もなかったから」
「並走するぞ」
「了解です!」
二人はそれぞれの愛馬にまたがると、仲睦まじく並んで出発した。
目指すはクロルバ区…!