第29章 カモミールの庭で
「あんたらは馬は乗るのかい? あぁ、乗るに決まってるか。なんてったって兵士だもんね。いいね! 自分で移動できる手段があるってのは。そういう意味で奥さんも私も自分だけじゃ遠くへ行けやしない、不便だよ? この村だと乗合馬車もないからね、ここから一番近い街まで行かなきゃならないんだ。だから奥さんはちょうどクロルバ区に行く人がいて、乗せてくれるって言うから急に出ていく気になったんだろうね」
ふうっと女性店主は大きく息を吐いた。
どうやら話が終わったらしい。
リヴァイとマヤは顔を見合わせていたが、マヤが “ここは私に任せてください” とばかりに大きくうなずいてから、質問を始めた。
「あの、クロルバ区に行かれたということは、ご実家がクロルバにあるのでしょうか?」
「さぁ、どうだろうね? 奥さんの実家がどこなのかは知らないね。クロルバ区かもしれないし、そこから連絡船に乗ってヤルケル区や王都に向かったのかもしれないしね!」
「……そうですか…」
マヤは落胆する。もし実家がクロルバ区にあるのなら、自分の故郷であるゆえ発見するのもたやすいと考えたからだ。
「そんな落ちこまないで! あんたらはザックの死を知らせにきたんだろ? ちょっと行き違いになったけど、大丈夫だって!」
「……大丈夫… ですか…?」
“何が大丈夫なのだろう” と思いつつ、マヤは女性店主を見つめると、意味ありげに笑っている。
「あぁ、そうだよ… 大丈夫! だって奥さんはザックに手紙を出していたからね。最初はその手紙を読んで、あんたらが来たのかと思ったけどね」
「そういえば…、思ったより早く手紙が届いたと最初に言ってましたね…」
「そうそう、奥さんが手紙を出したのはグレゴリーさんを埋葬した次の日だからね、間違いないよ! 奥さんは出ていくときにこう言っていたんだから “急なことですみません。息子には便りを昨日出しておきました” ってね。だからええっと、三日前だろ? そんなに早く届く訳ないか、全くの勘違いだったね。あははは!」
女性店主は可愛いアップリケ付きのエプロン姿で仁王立ちして、豪快に笑った。