第29章 カモミールの庭で
リヴァイとマヤが相槌を打つにも打ちにくいと困っているのも全く気にもかけずに、話はつづく。
「グレゴリーさんは倒れはしたけれど、命に別状はなかったし、それのおかげって言っちゃアレだけど、ザックが村に帰ってくることになったんだから、ほらなんて言うの? 不幸中の幸いだっけ? それだねってうちの亭主とも話していたんだよ。そうしたらグレゴリーさんが死んじゃってね!」
「……それはいつ?」
女性店主の話の合間にリヴァイはうまくすべりこんだ。
「ええっと三日…、いや四日だね、四日前だよ」
「四日前…、壁外調査の前日ですね」
「そうだな、8月19日だ」
リヴァイとマヤがささやき合っているのを、女性店主は聞き逃さない。
「そうそう! 19日。それはもう大騒ぎだったよ。足が不自由になるけど命にかかわることはないと聞いていたのに、また倒れたと思ったらぽっくりそのまま死んだというじゃないか。でね、旦那さんも亡くなってしまったし奥さんは子供を連れて…、あっ娘さんがひとりいるんだけどね、その子がまだ小さいのよ。5歳になるかならないかでね。その子を連れてしばらく実家に帰ると言い出した訳。それはそうよね? 当然じゃない? 長いあいだ帰ってなかったみたいだし…、というか私は奥さんがどこかに行ったところを見たことないかもしれないね。まぁ、この店をどうするかは知らないけど、とにかく実家に帰ってゆっくりと考えたいってことなんじゃないかね?」
やっと女性店主の怒涛の説明がひと息ついた。
「……なるほど。じゃあグレゴリーさんの奥様はご実家にお嬢様を連れて帰られたということなんですね?」
「そうそう! それが一昨日のことだよ。挨拶に来た奥さんに “えっ、実家に帰るのかい!?” と驚いてしまったからよく憶えているよ。帰るにしてもえらく急だなと思ってね… だってそうだろ? グレゴリーさんを埋葬したばかりじゃないか。そうしたらね、ちょうどクロルバ区に行く人の馬車に乗せてもらえるようになったからってね、それが急に出ていく理由だったね」