第29章 カモミールの庭で
「「………!」」
リヴァイとマヤは思わず顔を見合わせた。
「……すまねぇが、詳しく教えてくれないか」
「グレゴリーさんはね、先月にいきなり倒れてね…。命は助かったんだけど、もうこれまでのように店に立つのは難しいっていうんで兵士になってる息子さんを…、あっ!」
女性店主はそこまで話してから、リヴァイとマヤが兵士だと気づいたらしい。
「あんたら…、その兵団の…?」
「はい、そうです」
「あぁ、やっぱり! じゃあ手紙が思ったより早く届いたんだね。で、息子さんは…、ザックはどこだい?」
どう見てもリヴァイとマヤしかいないのに、女性はきょろきょろとザックの姿を捜すそぶりをしている。
どう伝えるべきかマヤは困ってしまって、リヴァイを見上げた。リヴァイはマヤに軽くうなずくと、あとを引き継いだ。
「……ザックは亡くなった。ここへは遺品を…」
「えええっ!」
リヴァイの言葉を最後まで聞かずに女性店主は叫んだ。
「ザックが亡くなった…?」
「はい…」
マヤはうなだれる。
「そんな! あぁ、そんなことがあっていいのかい!?」
女性店主は絶望したような様子で頭を抱えている。
「……差し支えなければ、話のつづきを…」
そう切り出したリヴァイをちらりと見て、女性店主は話を再開した。
「あぁ、そうだね。どこまで話したっけ? あぁぁ、グレゴリーさんが倒れて店番が無理だから、ザックを呼び戻すってところまでだ! ……でね、ザックに兵士をやめて帰ってきてくれと連絡したら今月いっぱいでやめて村に帰ってくるって話だった。それは良かったねぇと奥さんにも言っていたんだよ、私は。ほら、グレゴリー金物店は昔からある店だしね、やっぱり長男は村から出て兵士なんかやってないでね、店を継ぐのが当たり前だと思うけどね!」
女性店主はその “兵士なんか” の兵士が目の前に立っているのにおかまいなく、べらべらとまくし立てた。