第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
「あぁ、ごめんよ!」
抱きしめていた力をゆるめて。
「素晴らしい探求心のある同志がいると思うと嬉しくてつい…」
「いえ、私は空を飛ぶ鳥を見ていただけで、ハンジさんみたいに研究とかそんな立派なものじゃないんです…!」
ぎゅうぎゅうと抱きしめてくるハンジの圧をなんとか押し返して、マヤは叫ぶ。
「何を謙遜しているんだ。まぁそういう謙虚なところも好きなんだけどね。いやぁしかし鳥とはね! 鳥が巨人の気配を察知して逃げていくと。うん、非常に興味深い話だ。さすがマヤだ! 目のつけどころが違うよ。巨人に対する他の動物の行動は考えたこともなかったな。巨人のことは巨人とばかりに巨人だけを見ていたよ。もしその考察が確かなら、壁外調査に鳥をなんらかの形で連れていき、巨人レーダーとして使えるかもしれないね…。いやそれとも…」
「ちょっといいか」
ラドクリフの不審そうな声が怒涛のハンジのセリフを遮った。
「巨人は人間しか食わねぇんだから、鳥が逃げてくってのはおかしくないか? それとも鳥を食うんだったか、巨人は?」
「……だな。巨人は馬に見向きもしねぇ。鳥にも興味なんかねぇだろう…。だが…」
ラドクリフに同調したリヴァイだが、語尾を濁したのは恐らく。
「マヤが言うことなら… なんだって信じるってことか、リヴァイは!」
ニヤニヤしながらハンジが結論づけた。
「いや、そうじゃねぇが鳥が逃げ去ったなら、少なくとも鳥は巨人に興味があるんだろうよ」
私情とは関係なく意見を述べているつもりなのに、勝手にマヤと結びつけられて、リヴァイの語気が荒い。
次に口をひらいたのは、今まで静かに見守っていたエルヴィンだ。
「人間以外は襲わない巨人を、なぜ鳥が避けているのか…。どう思う?」
「「さぁ…?」」
ラドクリフとユージーンは仲良く一緒に首をかしげ、ミケはそんなもの知るかとばかりに短く鼻を鳴らした。
「そんなの鳥に訊かないとわからないけどさ、私が思うに巨人の体臭が嫌いなんだよ… きっと!」
ハンジの鼻息が荒い。