第28章 たちこめる霧に包まれたひとつの星
「タゾロさん、下りるのに時間がかかるとは…?」
マヤは城の外側から見上げたときの尖塔を思い出しながら訊いた。
エリー城は恐らく昔は東西に小さな尖塔があったと思われるが、今は西の尖塔は崩落して瓦礫の山となっていた。東の尖塔は綺麗に形が残っているとはいえ、そんなに高いものでもないので、下りるのに時間がかかるというのがどうにもぴんと来ない。
「塔の中は螺旋階段になっているんだが、かなり石段が崩れていてな…。月明かりだけで足もとも暗いし、俺みたいな慎重派は時間がかかっちまう」
「そうなんですか…」
「あぁ、立体機動で外から上がった方が楽かもしれない。お前ら、これからだったな?」
タゾロの問いに、ギータが。
「オレとダニエルが0時からで…」
マヤが引き継いだ。
「私はそのあと。分隊長とペアです」
「そうか、夜中はきついがしっかり見張れよ」
「「了解です」」
マヤとギータが声を合わせるなか、ダニエルだけが怪訝そうな声を出した。
「あの~、俺… 前からちょっと気になってることがあるんだけど…」
「なんだ、ダニエル?」
こんなことは言ってはいけないのではないかと心配するダニエルだったが、優しく聞いてくれるタゾロになら言いやすい。
「巨人は夜は襲ってこないっすよね? 見張りする必要なんかあるのかなって…」
「おい!」「それな!」
そんなことは言ってはいけないだろうとギータが “おい!” と声をかけるのと、よくぞ言ってくれたとばかりにジョニーが “それな!” と叫ぶのが同時だ。
「あはは、そう言いたくなるのはわかる。俺もそう思っていた時期があった。だがな、やっぱり見張りは要る」
「どうしてっすか?」
「確かに巨人は夜は襲ってこない。寝ているのかなんだか知らないが、暗くなると動きが止まる。しかしそれが本当に絶対そうだと何故言いきれる? 今までそうだったからといって、これからもずっと変わらずそうだとは誰も断言できないはずだ。だから見張りはしなければならない。それに…」
タゾロは、にやりと笑った。
「巨人のためだけに見張っている訳ではないだろ? 壁外だから人間はいないかもしれないが、野生動物はいるんだし自然災害や火事もいつ起こるかわからないしな」