第27章 翔ぶ
道端には7月7日にリヴァイと一緒に歩いたときと同じように、桔梗の青い花が風にそよいでいる。
秋まで咲きつづける桔梗は、この日も次の日も、そのまた次の日もずっと青い小さな星型の花を道行く人に楽しませてくれることだろう。
マヤは立ち止まって、桔梗の花に向かってしゃがんだ。
「……綺麗ね…。あのときと一緒…」
リヴァイに語った祖母の想い出。優しく耳を傾けてくれたリヴァイの横顔。これからたった二人でヘルネの街へ行くんだという期待に満ちた高揚感。リヴァイが誕生日プレゼントに贈ってくれた桔梗のティーカップ。
「……幸せだったなぁ…」
マヤはぽつりとつぶやくと、立ち上がって再びヘルネへ歩いて行く。
じきにヘルネが見えてきた。
泣いてはいない。しっかりとした足取りで街に入っていく。
……なにかとお世話になったヘルネの街。今日はどのお店も、どの場所も、どの景色も…。忘れないように刻みこみたい。
ヘルネに来るたびに必ず通る街の中心にある広場。四方八方に放射状に伸びている道。
自然と最初に選んだのはパン屋 “アメリ” のある女子に人気の道。
“アメリ名物・ウサギパン ただいま焼き立て”
店の入り口に立てかけられた小さな黒板に焼き立ての文字が躍る。
……アメリのパンは本当にどれも美味しくて。クリームパンのクリームのなめらかさは絶品だったわ。
漂ってくる焼き立てのパンの香りを堪能しながら進む。
手軽な値段の衣料店の隣には、ちょっとお高めのワンピースを販売しているブティック。
……初めてのお給金を握りしめて買いに来たなぁ…。
カラフルな石をふんだんに使ったアクセサリーや、可愛い髪留めを売っている小さなショップ。
……このお店で見かけた白銀色のビーズのヘアコームがセールで値下げしたときには、即買いしたんだった。
道の奥には一番よく通った雑貨屋さん。窓枠いっぱいに赤や黄色の小花を咲かせた植木鉢をたくさん並べた、絵本から飛び出してきたような愛らしいお店。ヘルネにはこの店以外にも何軒か雑貨店があったが、マヤはここがお気に入りだった。
……分隊長と一緒に来たのも懐かしいなぁ…。
ゆっくりゆっくり一歩一歩。
思い出の詰まったお店を見てまわる。一軒一軒にそれぞれの想いがあふれ出る。