第27章 翔ぶ
その翌日、つまりはプロポーズの返事をする期限の前日。
夕暮れ時にはまだ少し早いころ、マヤはヘルネへとつづく道を歩いていた。
前日の執務の補佐の時間に、ミケからこう提案された。
「マヤ、明日はここに来なくてもいい。ゆっくりと好きな場所で自由に過ごせ。……お前にとってベストな答えを出せるように」
ミケはこの数日間、一度もプロポーズの返事の件はどうなったかとマヤに訊いてこなかった。午後の執務室で二人きりでいても、全くその話題にふれない温かく見守ってくれているような態度が、マヤにはありがたかった。訊かれたところでマヤ自身にもまだ、答えが出ていなかったので答えようがなかったのだが。
そしてペトラも。
毎日どこかで顔を合わせたが、一切訊いてこなかった。だがペトラの場合は静かに見守るというよりは、“断るに決まっている” と思いこんでの沈黙だった気がする。
エルヴィン団長とは、団長室で会ったきりの状態だし、リヴァイ兵長は相変わらず全く姿を見かけない。
ハンジとモブリットはまた怪しげな新薬の研究に没頭してしまったし、マヤは表面上は誰からも騒がれることもなく、いつもどおりの訓練の日々を送っていた。
日中は頭を空っぽにして訓練に精進し、夜になれば寝床でごろんごろんと寝返りを打っては思い悩む数日間だった。
そしてマヤの中で答えが出た今、ミケの言葉に従って “ゆっくりと好きな場所で自由に過ごす” ために兵舎を出てきた。
……厩舎に行ってアルテミスに会いたかったけれど。でもきっとそのくらいの時間は後からでも取れるわ。ヘルネには…、今日行っておかないと…。
アルテミスはマヤにあてがわれた愛馬ではあるが、マヤのものではない、兵団の所有物である。
……だからアルテミスともお別れね…。
そう思うだけでこみ上げてくる涙をこらえて、ヘルネへ向かう。
そう、マヤはレイのプロポーズを受け入れる答えを出したのだ。