第27章 翔ぶ
リックが厨房に消えた。
レイはまた、何か腑に落ちないような浮かぬ顔をしている。
「……どうかしましたか?」
「いやちょっとな…」
レイは厨房への扉に視線を投げてから、声を落とした。
「さっきの話で気になることがあってな…」
「気になる… ことですか」
マヤの声も自然に小さくなる。
「あぁ。だがオレの勘違いかもしれねぇから、調べてみる」
「そうですか…」
なんのことだかよくわからないが、真剣なレイの顔を見ればもう、それ以上は訊けなくなる。
レイは端正な顔をゆがめて何か考え事をしているし、マヤはリックの話を思い返していた。
そのうちにリックが戻ってきた。
「お待たせいたしました」
小さなガラスのティーポットに、小さなガラスのティーカップ&ソーサー。
「うわぁ、可愛いですね! おままごとみたいです」
「左様で。このセットは貴族のご婦人方にはいつも大層な人気でございました。もちろん先ほどの未亡人にも…」
リックは慣れた手つきでテーブルの上の空いている場所に、さっとガラスのティーセットを乗せる。
そしてパフォーマンスをすることはなく普通に、ポットからカップに二人分の紅茶を注いだ。
りんごのような甘い香りが広がる。
ガラスなのでよく見える茶の色は、薄く色づいた琥珀色。
「いい匂いだな。なんてぇ紅茶なんだ?」
「こちらは…」
リックは答えかけたが、ふとマヤに微笑む。
「ウィンディッシュ様、おわかりになりますか?」
「えっと…」
マヤは少し考えてから。
「カモミールティーなのは間違いないのですが、何かとのブレンドだと思います…。ダージリンかしら…?」
「正解です。こちらはカモミールティーにダージリンと蜂蜜をブレンドしたものになります」
見事に言い当てたマヤは嬉しそうにうなずき、レイはひゅうっと軽く口笛を吹いた。
「マヤもすげぇな」
「いえ、そんな…」
褒められて恥ずかしそうにするマヤ。そのはにかんだ笑顔を見て、レイはある想いを強くする。
……今日こそ告げる日。
まだ早いのはわかっている。
だがもう待てねぇ。
この愛おしい笑顔を手に入れるには。
たとえ卑怯な手だと思われても、オレは…!