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【リヴァイ】比翼の鳥 初恋夢物語【進撃の巨人】

第27章 翔ぶ


……しがない庶民かぁ…。

うちなんかはクロルバの紅茶屋だから庶民そのものだけど…。王都で貴族を相手に立派に商売している人たちは違うのかと思っちゃった…。

マヤがそう思っていると、リックがつづきを話し始めた。

「身分違いの恋に苦しんだ男は、愚かにも駆け落ちを彼女に提案しました。それが彼女を追い詰めるとは思いもせずに…」

リックの声は苦悩に満ちて、低く、小さく、消えてしまいそうだ。

「男はお屋敷の外で、ただ一度の逢瀬を遂げたことがあります。それは王立劇場での観劇でした。そのときのように観劇を理由になら周囲に怪しまれずにお屋敷を出られるはず、そしてそのまま着の身着のまま二人でなんのしがらみもない場所へ行けたならば…。そう安易に考えた男は、二人を待ち受けている薔薇色の未来だけを夢見て待ち合わせ場所で待っていました。しかし時間になっても彼女は現れませんでした。一時間が経ち、二時間が経ち、三時間になろうとするころ男の知った顔が近づいてきました。彼女が一番信頼しているメイドでした」

話に聞き入るうちに、マヤはいつしか膝の上で組んだ両手に力が入る。

「メイドは何か大きな決意を秘めたような顔で二点のみ伝えてきました。一つ、彼女は寝こんでしまって来られないこと。二つ、彼女に縁談の話があること。そして男がメイドに渡された一枚のカードには、確かに彼女の筆跡で謝罪の言葉が書かれていました。男はすべてを悟りました。やはりどうしたって身分の差を超越することはできないのだと。駆け落ちを提案したときから彼女が何か思い悩んでいた様子だったことも、そのときになって初めて腑に落ちたのでございます。彼女が男に好意を持っていたことはまぎれもない真実ではありますが、身分を捨てる覚悟までのものではなかったのでございましょう。恐らく彼女は安全なお屋敷の中での人目を忍ぶ恋で満足だったのに違いありません。それに気づくことができずに彼女に身分を捨てさせようとした、そしてそれが幸せだと信じて強行しようとした男は万死に値いたします…!」

鬼気迫る声色。

恐る恐るマヤがリックの顔を見上げると、もう物静かないつもの表情に戻っていた。きっと一瞬だけ剥き出しにした丸裸の心だったに違いない。


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