第27章 翔ぶ
「やっぱりリックさん、素敵です!」
「ありがとうございます」
丁重にお辞儀をするリック。
「久しぶりに見せてもらったが腕は落ちてねぇな。さすが “紅茶の魔術師”」
「あのレイさん、その “魔術師” だけど…。他にも何かすごい技があったりするのですか?」
「あぁ」
レイはちらりとリックを見る。それは “話してもいいか?” と許可を求めるというよりは確認に近い。
リックは銀盆を小脇に抱えて立ったまま、にこやかに微笑んだ。
それをOKと受け取ったレイは、静かに話し始めた。
「リックはな…、王都にいくつもある紅茶商や専門店のなかでも、目利きが優れた茶師としてその名を馳せていた。そして評判が評判を呼んで、貴族の屋敷に出入りするようになったんだ。屋敷に出入りするうちに、今までの常識では計り知れない技で魅せるようになってだな…、いつしか “紅茶の魔術師” と呼ばれるようになったという訳だ」
レイは喉を潤すためか、そこまで話すとリックの淹れたオリジナルブレンドをひとくち飲む。
「……やっぱ美味ぇな…」
それを見てマヤも夏のニルギリ、葡萄の紅茶を口に含んで、香りを楽しみながら耳を傾けた。
「魔術師と呼ばれるほどに紅茶を視覚的に楽しませる技を編み出したんだ。さっきやってみせた独特な淹れ方の他にも、酒をしみこませた角砂糖を乗っけたスプーンをカップに渡して、それに火をつけたんだ。紅茶の上で青白く燃える炎はまるでロマンチックなキャンドルさながらで大評判となり、しまいにはそれ専用のスプーンが誕生したくれぇだ」
「あっ! ロワイヤルスプーンですね、ティー・ロワイヤルの! あれもリックさんが?」
自身を尊敬の瞳で見上げてくるマヤに、リックは控えめにうなずいた。
「左様でございます」
「すごいです!」
マヤは有名なティー・ロワイヤルまでもが、リック考案だと知って感激が止まらない。