第27章 翔ぶ
「……綺麗な店だな…。それに香りに満ちている」
「そうなんです。私も初めて来たとき… といっても今日で二回目なのですが…」
ここでマヤは恥ずかしそうに笑った。
「同じように感じました。白くて綺麗で気高くて。そしてこの紅茶の香り…!」
真っ白な扉を開ければ、めくるめく香りの奔流が二人をのみこんでいく。
「あぁ、確かに王都でもここまでの店は、なかなかお目にかかれねぇだろうな…」
「ですよね…! なんでもここのオーナーのリックさんは…」
マヤがリックが王都で商売をしていたとの情報を話そうとしたときに、奥にある木の扉がきぃっときしみ音を響かせてひらいた。
「いらっしゃいませ…」
客を出迎えたのはここ “カサブランカ” のオーナーであるリック・ブレイン。
相変わらずの上品な物腰。真っ白な頭髪は丁寧に撫でつけてある。トレードマークの雪のように白いあご鬚も健在だ。
今日もパリッとした白のシャツに黒のジレを着こなして、紅茶専門店のオーナーとしての風格を醸し出している。
「これはこれはウィンディッシュ様…!」
リックはマヤを見て、顔をほころばせた。
「リックさん、こんにちは。今日はこちらの方を…」
マヤは背後に立つレイを紹介しようとしたのだが、すぐに異変に気がついた。
レイの姿を認めたとたんにリックから、かすかにハッと息をのむ音が漏れ出たのだ。不思議に思ってレイの方を振り向くと、レイもその涼し気な翡翠の瞳に驚愕の色がありありと浮かんでいた。
「……こいつは驚いたな…。リック・ブレインじゃねぇか…」
「レイさん、知ってるの…?」
「あぁ。王都の名だたる貴族のあいだでは、その名を知らぬ者はいねぇだろうな。リック・ブレイン…、“紅茶の魔術師” と呼ばれた男だ」
「リックさんが “紅茶の魔術師”…?」