第27章 翔ぶ
歩いて30分ほどの距離にあるヘルネは、馬車だとものの数分で到着するのだ。
街の中心にある広場でレイとマヤの二人をおろすと、馬車は行ってしまった。大きな馬車なので、街の外れで待機でもするのだろうか?
これから一体どうするのだろうかと、マヤが不安げにレイを見つめると。
「さぁ、マヤ。ひいきの紅茶専門店とやらに案内してくれ」
とびきりの笑顔を向けてきたレイの白銀の髪が、まだ高いところにある陽を受けてキラキラと輝いた。
「ひいきの…? あっ…」
「そう。ティーコゼーを買ったときに言ってただろ? カップだらけの紅茶の店があるってよ」
「はい。“カサブランカ” っていうんです。とっても素敵なお店です!」
マヤはレイが “カサブランカ” に興味をもってくれたことが嬉しくて、張り切って案内を始めた。
「こっちです」
広場から四方八方に向かって放射状に伸びている道のうちの一本を歩く。
紳士服の店、革靴の店、タイ専門店を通り過ぎる。
きょろきょろと店を見ながら、レイがぽつりと感想を漏らした。
「男もんの店ばっかだな」
なんとなくマヤのひいきの店にしたら、通りのイメージがそぐわないような気がして。
「マヤが来るような感じじゃねぇよな…?」
案内しなくてはと気負って一歩先を歩いていたマヤは、レイの声を聞きつけてにこやかに振り返った。
「そうなんです。見てのとおり、男性の衣料品店が多い通りだから… 私には全然なじみのない道だったんです。だから “カサブランカ” に連れていってもらったときに初めて通ったんです」
「へぇ…」
誰に連れてきてもらったのかとレイは訊きかけたが、やめた。
……答えは今は聞きたくねぇ。
どうせ十中八九あの目つきの悪い男だろうしな。
……面白くねぇ…!
レイがリヴァイの顔を思い浮かべて内心で悪態をついていると、マヤのほがらかな声が聞こえてきた。
「レイさん、ここです。“カサブランカ” です!」
顔を上げれば思いがけもしない “白” が待ち受けていた。
ずっと辛気臭い紳士ものの黒やグレーが多勢を占めていた道の先に、こんなにも明るく輝く白亜の宮殿のような建築物がたたずんでいるとは。