第27章 翔ぶ
タゾロは可愛い後輩のマヤの不安をよく理解できたが、彼はただ優しいだけの先輩ではない。
ミケに信頼を置かれて訓練の指揮を任されるには、厳しさも必要なのだ。
「マヤ、今は訓練だ。俺も余計な情報を口にして悪かった。さぁ…、アルテミスが待っているぞ」
「はい…!」
……そうだ、今は思い悩んでいる場合じゃないわ。
マヤは雑念を頭から振り払うと、取りかかっていた障害物の設置に集中した。
結局その後馬場に、ミケもレイも姿を見せることはなかった。訓練は順調におこなわれ、終了の時間を迎えた。
それぞれが様々な想いを抱えながら、愛馬の手入れをしている。
……このあとは、どうしたらいいのかしら? とりあえずは分隊長の執務室に行かないと…。
……マヤさんと一緒に自主練をしたいんだけどな…。
……白薔薇王子は何やってるんだ? 来るならとっとと来やがれ。
乱暴なジョニーとは対照的にダニエルはのんびりと。
……腹減った~。晩メシ何かな?
そんななかタゾロの声で、皆がハッと手を止める。
「ミケさんだ」
確かにミケが、足早に近づいてきていた。
「「「お疲れ様です!」」」
敬礼をする班員たちにミケは軽くうなずくと、すぐに話を切り出した。
「マヤ、正門でレイモンド卿が待っている。アルテミスは俺が見るから、すぐに向かってくれ」
急を要する雰囲気に、マヤの顔も引き締まる。
「火急でしょうか? このままで行っても…?」
自身の兵服にちらりと目をやりながら、マヤは真剣に訊いた。
これまでは風呂に入る時間はないが、自室で訓練でかいた汗を拭いて私服に着替えてから正門で待機している馬車に乗りこんでいた。
身だしなみとして最低限、訓練のあとの汗はぬぐいさりたいところではあるが、任務であるゆえ命令には従わなければならない。
火急につき兵服のまま駆けつけろということならば、仰せのままに。