第27章 翔ぶ
「「「すみません!」」」
慌てて作業に戻るマヤたち。
反省している様子の後輩を見てタゾロは満足そうに大きくうなずくと、新情報をもたらした。
「手を止めずに聞けよ。レイモンド卿は来てる」
「えっ! どこに?」
「マジか!」
「なんでここに来ねぇの?」
ざわつく新兵三人組。
マヤもタゾロに質問せずにはいられない。
「どういうことですか? タゾロさん、知ってることを教えてください」
「昼食後、ミケさんに呼ばれたんだ。で、執務室に行ったら午後の訓練の指示を受けた。そのときにミケさんは “俺も顔を出すはずだったが、急なことですまないな” と言っていたんだ。俺は “急なこと” とは何か訊きたかったが、ミケさんはもうこれ以上何も言うことはないという顔をしていたんでな、そのまま退室した。するとだな…」
少々もったいをつけて言葉を切ったタゾロは、マヤたちの顔を順番に見た。
一番遠慮のないジョニーが叫ぶ。
「タゾロさん、もったいぶらないでくださいよ!」
「ミケさんの執務室を出た俺は、ある人とすれ違ったんだ」
「「白薔薇王子か!」」
ジョニーとダニエルが仲良く声を合わせる。
「あぁ、白薔薇… いやレイモンド卿は団長室に入っていったよ」
「「「へぇ…!」」」
新兵三人組は素直に驚きの声を出したが、マヤは黙っている。
「……という訳でレイモンド卿は休みじゃない。そのうちここに顔を出すんじゃないか? さぁ、とっととやるぞ!」
タゾロはそう声をかけてから、マヤに近寄り気遣いを見せた。
「マヤ、大丈夫か?」
無言で何かを考えている様子の可愛い後輩のことが気になるのだ。
「はい、すみません。いつもならレイさんは馬車で来たら、ミケ分隊長のところに直行して一緒に訓練場に来るのに…。今日は団長室ですか…」
……そして訓練の時間になってもレイさんも分隊長も現れない…。
団長室で何が起こっているの? 何か話し合っているの?
……私のこと? 任務のこと?
マヤは言い知れぬ不安が押し寄せてくるのを感じて、立ちすくむしかなかった。