第27章 翔ぶ
明くる日の午後の訓練の第一部の時間。
馬場には馬術訓練をおこなう第一分隊がいた。第一班、通称ミケ班には、なぜか分隊長および班長であるミケの姿は見当たらない。
ひととおりの基本の騎乗訓練… 常歩(なみあし) から速歩(はやあし)、そして駈歩(かけあし) で馬場を周回してウォーミングアップを終えたタゾロ以下班員が、次におこなう障害飛越訓練の準備のために障害物の設置に勤しんでいる。
支柱に横木をかけながら、ジョニーがマヤに話しかけた。
「今日はあの白薔薇王子は来ないんすかね?」
「う~ん、遅れて来るのかな? とは思ってるんだけど…」
「分隊長もいねぇし、どうなってるんだろ?」
「そうねぇ…」
ミケが姿を見せないだけではなく、訓練を毎日欠かさず見学していたレイまでもが今日はいないのだ。
「昨日はマヤさんが休みだったんで、もちろん白薔薇王子も来なかったんすけどね」
平然と白薔薇王子と言うジョニーをたしなめる。
「ちょっとジョニー、さっきから白薔薇王子白薔薇王子って…!」
「みんな言ってますよ? なぁ!?」
少し離れたところで作業していたギータとダニエルに声をかける。
「そうっすね~。もう今日は白薔薇王子は来ないんじゃないっすか?」
ダニエルが言えば、ギータもうなずいた。そして遠慮がちに。
「もしこのまま白薔薇王子が来なかったら… マヤさん、久々にオレらと一緒に訓練しませんか?」
ジョニーとダニエルがにやにやしながら視線を交わす。
……おい、ギータのやつ、マヤさんのことあきらめたんじゃなかったのか?
……兵長が相手ならあきらめるしかねぇけど、貴族相手だったらヤル気が出てくるんじゃね?
ギータの誘いにマヤが返事をしようとしたそのとき、タゾロが駆け寄ってきた。
「おい、お前ら! 手が止まってんぞ!」