第27章 翔ぶ
「マヤが一週間味わいつくしたメニューのこと、聞きたいな~。さっき言ってた子羊のローストとか? すごいのばっか食べたんでしょ? 他にはどんな? 全部教えてよ、全部!」
紅茶のお代わりを淹れるために、ティーポットやカップをかちゃかちゃと片づけながら。
「そんな全部なんて憶えてないよ」
「え~! 私は高級ディナーを食べられないんだから、せめてマヤから話を聞いて、食べた気分になりたいのに!」
ぷうっと頬をふくらましたペトラを見て、マヤは笑う。
「ふふ、じゃあ頑張って思い出すよ」
時計を見れば、まだ14時をまわったばかりだ。
「時間もたっぷりあるし、じっくり聞かせてもらうわよ」
「了解。お代わりを淹れてくるから、ちょっと待ってて」
マヤが部屋を出ていった。
ベッドに寝転がっているペトラは、部屋中の白い薔薇を眺めているうちに、満腹になっていることもあって睡魔に襲われてしまった。
「お待たせ」
マヤが紅茶を淹れ直して戻ってくるころには、すっかり夢の中。
「ペトラ…?」
机に紅茶を置くと、顔を覗きこむ。
「……寝ちゃったか…。せっかく淹れたのになぁ…」
しばらく幸せそうなペトラの寝顔を見ていたら、なんだかマヤまで眠くなってきた。
リラックスしようと思って淹れた、カモミールティーの青りんごのような香りが関係しているのかもしれない。
マヤも自身のベッドに横になる。
「ペトラ、起きたら… 話すね…、ご馳走の…」
眠りの姫が二人になった夏の日の午後。
開け放たれた窓から、熱気を少しはらんだ風が入っては白いカーテンを揺らしている。
おだやかな寝息とともに静かに眠る二人には、翌日からよもやの急展開を迎えるとは知る由もなかった。