第27章 翔ぶ
「ん? どういう意味?」
「宿を一軒丸ごと借りきってるって言ったでしょう?」
こくこくとペトラはうなずく。
「執事長さん、メイドさん、料理人さん…。大勢の人を引き連れて泊まっているの」
「そうなんだ!」
「それから馬車の御者さんも、馬を手入れする人も別でいるみたいだし…。レイさんの朝食と昼食は、連れてきた料理人さんが宿の厨房を借りて作っているらしいけど、材料は王都から取り寄せてるし…。もうそういうのを聞いてたらね、“あぁ、この人にとってはこれが当たり前のことで、それをとやかく言うことなんかできない” って思うようになったの」
「うちらが口出しできるようなレベルじゃないわね…、確かに」
「だから “え?” と思うことがあっても黙ってる。ただ、私のために王都から劇団を呼び寄せるとか、そういうのは遠慮するけどね」
「そうだね。……朝摘みの薔薇を断るのも忘れちゃ駄目だよ!」
悪戯っぽく言うペトラ。
「了解!」
マヤも敬礼の真似事をして返してから、話をつづけた。
「だからね… なんでも王都から運んできているレイさんのことをすごいなぁって思って、レストランのお料理が美味しいなぁって思って、あとは楽しくお茶をしたりお店を見ていたら一週間が過ぎていたって感じよ? 会話もそのときそのときで、これが美味しいですねとかそういうのばかりで全然プロポーズ第二弾とかそんな雰囲気にはならないし」
「そっか。じゃあレイさん、なんのために来たんだろうね? まさかマヤとごはんを毎日食べるためだけじゃないよね? 一緒に過ごしてお互いを知るためだって言ってたよね?」
「そうね、そう言ってた」
「じゃあもういいじゃん。一週間も一緒にいたら充分じゃない? マヤのことを知って、自分のことを知ってもらったら、さっさとプロポーズすればいいのにさ! なんでなの? なんでしてこないの!?」
なぜかペトラはイライラして、言葉尻も強くなっている。
「なんでだろうね。……あっ!」
マヤは急に思い当たることが浮かんで、小さく叫んだ。
「不確定なんだ、未来は」