第27章 翔ぶ
「ちょっと大人な雰囲気のお店と、カジュアルな子供連れがメインのお店。それから、おしゃれなテラス席のあるカフェにも行ったよ」
「うわっ、色んなお店でお茶したんだね。ディナーとお茶以外は? 買い物?」
「うん。あっ、でもそんなに買ってないから実際には見てるだけ… かな? 洋服屋さんに最初に行ったときに、試着してみろって言われて着てみたらレイさんが買うって言い出したから、どうにかこうにか断って、それからは試着もしないようにしてるから」
「そうなんだ。何も買わないのにお店を見るのも…、なんだかねぇ…」
いたって買い物好きのペトラは、少々不服そうな声を出した。
「そうだね。でも全く何も買ってない訳ではないよ。自分のお金でポプリ袋とティーコゼーを買ったわ」
「あっ! もしかしてこれ!?」
ペトラは初めて見るティーコゼーを指さした。
「そう! すごく可愛くて一目惚れしちゃった」
ティーコゼーは紅茶を蒸らすとき、そして保温するためにティーポットにかぶせる、いわゆるティーポットカバーだ。
厚手のキルティング生地や毛糸で編んだものなど、その素材は様々で、デザインもティーポットをすっぽり覆えるものならばなんでもよく、自由度が高い。
マヤがトロスト区の雑貨屋で一目惚れしたティーコゼーは、シンプルな半月型だった。形はもっとも目にする定番のものだが、そこに描かれている絵柄は少々めずらしい。
無地や花柄、幾何学模様がポピュラーな絵柄であるのだが、マヤのティーコゼーには様々なデザインや色のティーカップが布地いっぱいに描かれていた。
「確かに可愛いね! 色んなティーカップがいっぱい!」
「でしょう? 前に兵長が連れていってくれた紅茶専門店がね、ティーカップで埋め尽くされていたんだけど、それを思い出しちゃって。このティーコゼーを見ているだけで “カサブランカ” に行った気分になれちゃう」
ヘルネの紅茶専門店 “カサブランカ” と、そのオーナーであるリック・ブレインを思い浮かべる。
「紅茶が大好きで、実家が紅茶屋さんのマヤにぴったりのティーコゼーだね」
「ありがとう」
マヤはとびっきりの笑顔をペトラに向けた。