第27章 翔ぶ
「そうなの、本当に色々あるんだ。フォークを落としちゃっても自分で拾ったら駄目だったり。とにかくなんでも給仕さんにやってもらうのが基本らしいの。それにね…」
マヤは一週間の夕食の経験で、一番驚いたフィンガーボウルの話をする。
「子羊のローストが出た日があってね…、骨付きなんだけど。それと一緒に銀の小さなお椀みたいな器が出てきたの。なんだろうと思って覗きこんだらレモンが浮かんだ水が入っていたわ」
「ふぅん、変なの。コップでいいじゃん」
てっきり飲むためのレモン水だと思ったペトラ。
「私もそう思ったのよ、飲むのかと思って。でもね、違ったの。お肉をフォークとナイフで骨から切り離して食べるんだけど、どうしても全部はうまく取れないでしょう? その骨に残ったお肉を食べるのに、骨を手で持っていいんだ」
「そうなんだ… 意外だね、手掴みしていいなんてさ」
「うん、私もびっくりした。手を使って食べるメニューも結構あるみたいで、そのときに汚れた指先を洗うためのレモン水だったの」
「え~、手なんてハンカチで拭けばいいんじゃないの?」
「違う違う、そのフィンガーボウルに入ったお水で洗わなくちゃいけないの。それがマナーなんだって」
「……めんどくさ!」
「まぁね…。でも実際に洗ってみたら、お肉の脂もすっきりするし、ほんのりレモンの香りがしてサッパリして気持ち良かったよ」
「まぁ、マヤが気に入ったなら別にいいんだけどさ。でも一週間も高級レストランで飽きなかった? 他の店には全然行かなかったの?」
「あぁ、えっとね。ディナーは全部そのお店だけど、その前にちょこっとお茶をするときもあって、カフェには何軒か行ったよ」
「へぇ、いいなぁ!」
……高級レストランにカフェ巡り。想像しただけでワクワクする…!
ペトラはその大きな薄茶色のくりくりとした瞳を輝かせた。