第27章 翔ぶ
マヤの視線をしっかりと受け止めて、ペトラは一緒にため息をついた。
「そっか…。確かにドレスや宝石なんかもらえないよね。花束なら私も受け取ってしまうわ。だってその一回きりだと思うしね。仕方がないよ…」
そしてもう一度、部屋の白薔薇を見ながら。
「でもこれ以上増えても困るのはマヤだし、明日言おう! “たくさんもらいすぎて困ってます。部屋からあふれそうだからペトラにもあげました。もう金輪際要らないです” ってね! わかった?」
「うん…」
そんなきつい言い方はできないけれど、きちんと断らなければとマヤは思った。
「よし! じゃあこれで薔薇問題は解決ね。それで宿を一軒丸ごと借りきってるってホントなの?」
「うん。宿もだし、夕食に行くお店もいっつも “本日貸切” になってる」
「どんな店?」
「多分、トロスト区で一番上等のレストラン。お料理もすごいし、店内の雰囲気や食器もすごいし、ずらっと壁際に給仕さんが待機してるし…」
「うわぁ…。そんなの緊張しない?」
「するよ! 美味しいんだけど、最初はマナーもわからないし…」
「だよね」
「でも毎晩そこだから慣れてきて、今は大丈夫だけど。レイさんがマナーも何も気にしなくていいって言うけど、そこは色々教えてもらったの。せっかくだから、知らないよりは知っている方がいいと思って」
「そうだね。そんな機会でもないと、いつまでたっても知らないままだしね」
ペトラの同意が嬉しくて、ついつい笑顔になる。
「マナーを知ったところで使うところがあるかどうかは別だけどね」
「あはは、そうだね。でもまぁ、いいじゃん。知ってて損はないって。で、マナーってどうなの? 難しい?」
「ううん、慣れたら大丈夫。ナイフやフォークは置いてある外側から使えばいいの。それにもし順番を間違えても別にいいんだって。堅苦しく考えなくていいって、レイさんが」
「へぇ、そうなんだ」
「それからナイフとフォークをお皿に置く向き。食事の途中はハの字に置いて、終わったら揃えて斜めに置くの。そういうのを給仕さんが見ているんだって」
「色々あるんだ~。あんまり下品に音を立てちゃ駄目くらいしか知らないわ」
そう言うとペトラは、サンドイッチに音を立てる勢いで豪快にかぶりついた。