第27章 翔ぶ
後半は何を言っているのかサッパリわからないが、それはさておき料理長は我ながらうまく答えられたと自画自賛だ。
……西のクロルバに比べたらここトロストは、当店を筆頭に立派な店構えが多いのは当たり前だが…。だがクロルバを田舎だと完全に肯定すれば、連れのお嬢様の故郷であるからして失礼に当たるやもしれぬ。かといって嘘までついてクロルバが田舎ではないというのも、お嬢様の言葉を否定するからこれも失礼千万。ならば…!
微妙に田舎ではないと答えつつも、多少は田舎かもしれないといった絶妙なニュアンスで完璧に答えたつもりでいたのだ、料理長は。
だがレイの少し意地悪そうな声色に、顔面蒼白になる羽目に。
「……ってぇことはマヤの故郷のクロルバ区は、ここトロスト区より田舎で間違いねぇのか。オレからしたら、ここなんかもすげぇ田舎だけどな。でもまぁ街がどうとか関係ねぇ。要はそこに住む人がどうかが重要だしな。自分のところよりも他人のところを見下すやつは田舎者のすることだろうよ」
「ひぃっ! あれ、間違えましたでございまっする。クロルバ区は風光明媚なとても良いところでありまして…!」
「突出区に風光明媚とかあんのか?」
「そ、それはですね…」
レイは完全に面白がっている。
二人のやり取りをはらはらしながら聞いていたマヤは、とうとう我慢ができなくなった。
「あの…、レイさん! クロルバは本当にここに比べたらのんびりしたところで田舎で間違いないんです。料理長さんを困らせないで!」
「いやぁ悪ぃ悪ぃ! 料理長が赤くなったり青くなったりで面白くてな、つい」
「駄目ですよ、そんなの。料理長さんは何も間違ったことは言ってないのに…!」
キッとマヤに睨まれて、レイは慌てて謝った。
「すまねぇ…。このとおりだ、許してくれ」
頭を下げてから料理長にも。
「料理長もすまなかったな。悪ふざけが過ぎたようだ」
「いえ! 私は全く! なんとも! とんでもございませんでございまっする!」
レイの謝罪を受け取った料理長は内心で、再び驚愕していた。
……バルネフェルト公爵家次期当主が頭を下げるこの小娘は、一体何者なんだ!?