第27章 翔ぶ
父の店に誇りを持ってはいるが、ただの紅茶好きが営む小さな小さな店だ。卸しや、手広く商売を手掛ける紅茶商と同一のレベルでは決してない。
だからマヤは必死になって訂正した。
そしてその様子を見て、レイは無性に気になってくる。
……そういえばマヤの故郷はどこだ?
「ただの田舎と言うがマヤの故郷はどこなんだ?」
「クロルバ区です」
ど真ん中の王都のさらに中心の中心にいるレイには、クロルバ区と聞いたところでぴんと来なかったが、トロスト区の料理長は合点がいった顔をしている。
巨人から人類を守る壁には四方に突出した地区…、突出区がある。これは人類が密集したところに巨人が本能的に惹かれて接近してくるという習性を利用した一種の防衛策である。
突出区に住民と兵力を集中させることによって、必然的に巨人は突出区のない壁ではなく突出区に集まるので、対策を練りやすいのだ。
そして巨人はなぜか南から必ずやってくるので、四方にある突出区のなかでも南が一番兵力を集結させてあり、それにしたがって街も栄えているのだ。
ウォール・ローゼには東西南北それぞれに、カラネス区、クロルバ区、トロスト区、ユトピア区。ウォール・シーナにはストヘス区、ヤルケル区、エルミハ区、オルブド区。
このうち南の突出区であるトロスト区は、他の区より住民も兵力も多く、街が発展しているのだ。西のクロルバ区出身のマヤからすれば、トロスト区と比較してクロルバ区がただの田舎というのも無理がない程度には。
「へぇ…、クロルバ区か…」
料理長の一瞬の表情に気づいていたレイは、わざと彼に話を振る。
「料理長、オレはクロルバ区には行ったことがねぇんだが…。マヤの言うような田舎なのか?」
「えっ! あぁ、そうですね…」
レイの顔色をうかがいながら、料理長はどう回答するのがベストなのか必死で計算する。
「そんな驚くほど田舎という訳では全然ありませんが、ここに比べたら多少はそういった風情があるのも致し方ないかもしれませんでございまっする」