第27章 翔ぶ
「へぇ…」
レイが興味深そうな様子で聞いてくれるのが嬉しくて、マヤは調子づく。
「飲んだあとの茶葉は、ポプリにするだけではないんですよ。お掃除にも使えるんです」
「……掃除?」
良い香りを楽しむポプリはまだ理解できるが、掃除とどういう関係が…? と不思議そうな顔のレイ。
「お茶がらを撒いてほうきで掃けば、ほこりを吸って綺麗になりますし、紅茶色の家具なら煮出したものに雑巾を浸してかたく絞ったもので拭けば光沢が出るんですよ」
「よく知ってるな、そんなこと」
「ええ。父がお店でいつもやっていましたから…」
「店…?」
「あっ、私の家は紅茶屋なんです」
「紅茶屋か」
「はい、茶葉を売っています。父がブレンドしたオリジナルの茶葉もあるんですよ。それからちょっとしたカフェコーナーがあって、そこで母の焼いたお菓子と一緒に飲めるようになっています」
紅茶を愛する父親が丁寧に淹れた紅茶と、優しくていつも笑顔の母親が心をこめて焼いたパウンドケーキやスコーン。
とても小さな店だけれど、両親が笑顔でお客様を、美味しい紅茶と菓子でもてなす実家の紅茶屋がマヤは大好きだし誇りに想っている。
こうやって店のことを誰かに話すだけで、自然と胸があたたかくなって笑顔がこぼれてしまうのも無理はない。
「……いい店なんだろうな。マヤの顔を見てたらわかる」
「ありがとうございます。私の自慢のお店です!」
「そうか」
故郷の両親と店を思い出して嬉しそうにしているマヤを見て、レイも嬉しくなる。知らなかったマヤの生家のなりわいを知ることができて、また一歩近づけた気がするからだ。
「じゃあマヤは紅茶に詳しいんだろうな。これとか、飲んだだけでわかるのか?」
レイはデザートとともに出された優雅なティーカップをひょいと持ち上げる。
「あぁ、はい! この透明感のある澄んだ花の香りは “ゴールデン・トワール” です。きっとデザートが桃のコンポートだったからゴールデン・トワールを合わせてきたかと」