第27章 翔ぶ
「……本当に勝手がわからなくて。服もこんな立派なお店に来るのなら、もっときちんとした服装にしたのに…」
マヤは、レイと二人で街に出る=デートだとは意識しないようにと考えて、ごく普通の気負いのない格好で来たのだ。
「そんなことは気にしなくても、マヤは充分に綺麗だから大丈夫だ。それにオレだって今日はスーツじゃねぇだろ」
「………」
確かに昨日の、全身を白で揃えたスーツ姿ではないが、今日のラフなジャケットとシャツで決めているレイは、にじみ出る貴族の気品がそうさせるのか強烈なオーラが漂っている。
……レイさんは根っからの貴族だもの。どんな格好でも大丈夫だろうけど…。
マヤが内心でそう思っていると、レイが質問をしてきた。
「そのポプリ袋だが、マヤの見ていたのはポプリなんか入ってなかったよな? ただの空の巾着に見えたが…」
「あぁ、そうです。あれは空の袋。ポプリを自分で作って入れたいなぁと思って」
「へぇ、自分でか…。そういえば屋敷にも薔薇のポプリがあちこちに置いてあったな…」
「そうでしたね。レイさんのところの薔薇のポプリはポプリ袋に入れるだけではなく、ワイングラスにつめて飾ってあったりして素敵だったなぁ…。上品な薔薇の香りがルームフレグランスとして最高でした。あれも白薔薇…?」
「もちろん」
「ふふ、そこは徹底しているんですね」
「まぁな、絶対に白い薔薇しか使わねぇよ」
レイはにやりと笑ってから、つづけた。
「マヤもポプリには薔薇を使うのか?」
「私は紅茶です」
「……紅茶?」
意味がわからないといった声のレイ。
「花を使わねぇのか? 紅茶でポプリ?」
「紅茶の茶葉はそのままでも、出がらしでもポプリにできるんです。でもそのままではやっぱりもったいないので、私は紅茶を飲んだあとの出がらしの茶葉を乾燥させて使います」
「もったいない?」
「はい。やっぱり紅茶は飲んでその香りと味を楽しむものですから…、それが一番なのです。そして飲んだあとにもう一度、香りを楽しむんです」
レイに紅茶の茶葉で作るポプリの話を嬉しそうにしているマヤは、このレストランに来て… いやトロスト区に来てから一番の笑顔をしていた。