第27章 翔ぶ
「媚薬…!」
確かにこの牛フィレ肉のポワレ、トリュフソースを食べていると、ぽっぽと頬が火照り、たちこめる香りとともに不思議な高揚感に包まれている。
「……そんな怪しくて危険なキノコをお料理に使って大丈夫なの…?」
真剣な顔をして訊いてくるマヤが愛らしくて、レイは笑い飛ばした。
「ハッ! 普通はそんなに顔を赤くして酔ったりしねぇ。きっと初めて食べたから慣れてねぇのもあるだろうし…」
そこまで話してから。
レイは少々意地の悪い、ニヤニヤした目つきで。
「マヤは媚薬が効きやすい体質なのかもしれねぇな」
「そんな!」
「冗談だよ」
「もう…! びっくりするじゃないですか!」
「悪ぃ、悪ぃ」
頬をふくらますマヤをなだめながら、レイは思った。
……媚薬をしこたま嗅がせて、淫らに酔いつぶしてみてぇ気もするがな…。
レイの妄想など知りもせずに、マヤは料理を残さずに食べていく。
「……美味しい…!」
水蜜桃を白ワインで煮こんだ贅沢なコンポートを美味しそうに食べながら、マヤはあらためて礼を述べ始めた。
「レイさん…、あの… ありがとうございます。こんなに美味しいお食事をご馳走してもらって…。さっき覗いたお店でも楽しかったし…」
このレストランに来る前には、ぶらぶらと街を散策して雑貨屋で可愛らしい小物を手に取ったりしたのだ。
「あの店で見ていた… あれなんだ? ちっちぇえ巾着袋みたいなのは」
「ポプリ袋です」
「それそれ。オレが買ってやったのによ…」
「いえ、今度自分で買います。今日は訓練のあとばたばたして、お財布を持ってこなかったから…」
今日は午後の訓練をレイが見学したあとに初めて街に出かけたので、マヤはどう行動すればよいかわからなかったのだ。
とりあえずは兵服から私服に着替えて、慌ただしく用意された馬車に乗りこんだ。