第26章 翡翠の誘惑
「ハンジ、夜に連れこむなんて誤解を生むような言い方はやめろ。マヤは真剣に執務を手伝ってくれてるんだ。それにミケ、てめぇは勝手に人の部屋を嗅ぐんじゃねぇ!」
「はいはい、悪かったよ」
全然反省していないことが丸わかりの口調で謝ったハンジは、ミケの肩をつつく。
「ほら、ミケも! リヴァイの機嫌が直らないと申請書を書かないからさ」
ハンジに急かされてミケが何か言おうとする前に、リヴァイが吐き捨てた。
「申請書は書かねぇからな!」
「え~! なんでぇ!」
「なんではこっちのセリフだ。なんでお前らの前で書かねばならねぇんだ」
「もう! ミケがマヤの匂いを嗅いだせいだからね!」
すべての責任をミケに押しつけてハンジは口を尖らせたが、次の瞬間にはにかっと笑った。
「まぁ、でも結局のところ… エルヴィンが一番の部下思いだったね!」
「「………?」」
リヴァイもミケも疑問符を浮かべる。
「だって、そうじゃないか。エルヴィンが一番に考えていたのはリヴァイのことだったんだから」
「……そうか…?」
「そうだよ。リヴァイ、君はエルヴィンに愛されてる」
「薄気味悪いことを言うんじゃねぇ」
「あはは、照れなくていいよ!」
「照れてねぇ!」
そんなリヴァイとハンジのやり取りを内心で微笑ましく思いながら、ミケは静かに立ち上がった。
たまにしか来ないリヴァイの執務室。
前に来たときには確かにマヤの匂いがした。
それは部屋の主であるリヴァイの匂いと調和して、心地良くミケの鼻こうをくすぐったものだ。
そしてそれを密かに妬んだ。
マヤの匂いならばミケだって毎日午後に執務室で一緒に過ごしているのだし、リヴァイの夜のときよりも滞在時間は長い。
なのにミケの執務室に漂うマヤの匂いは、リヴァイの部屋のものよりも… どう表現すれば?
……そうだ、かぐわしくない。
ミケは良い言葉を思いついて、ひとりうなずきながら窓辺へ近づく。
俺の部屋のマヤの匂いは、特別な匂いはしないんだ。
だがリヴァイの部屋だと、まるで二人の匂いが惹かれ合うように。
……きっとハンジならこう言うだろうな。
“リヴァイとマヤの匂いが惹かれ合うって? ミケ、それは素敵なケミストリーだ!”