第26章 翡翠の誘惑
「ナイルにだと…?」
「あぁ。ミスリル銀の件でレイモンド卿ともマヤたちとも馴染みになったことだし、適任だからな。ナイルはああ見えて世話好きなんだ」
エルヴィンは旧友を想い、一瞬優しい目をする。
「あの薄ら髭が世話好きかどうかなんか関係ねぇ。俺かお前が行けば済む話だろうが」
「私の話を聞いていたのか、リヴァイ。レイモンド卿は私たちには来てほしくないんだ」
エルヴィンは持っていた招待状を、リヴァイに差し出した。
受け取ったリヴァイは目を通し終えると。
「確かに “マヤ・ウィンディッシュ、ペトラ・ラルおよびオルオ・ボザドの三名を招待いたしたく…” と書いてあるな。それもわざわざ傍点をいちいち打ってやがる…」
そう、今リヴァイが引用した部分にはご丁寧にも傍点が一文字一文字に打ってあり “三人で来い” と強調してあるのだ。
「わかったか? それでなくとも五日間の日程は断るんだからな、マヤ、ペトラ、オルオの三人でというところは大人しく従うのが得策だ」
「いや、わからねぇ。お前のいう寄付金の道すじのためレイモンド卿の機嫌を損なわないように条件をのむってことなら、四泊しろってのを一泊にするのも許されねぇと思うが?」
「私が思うに、そこのところはレイモンド卿は理解があるかと。マヤたちは訓練兵ではない、独り立ちした調査兵だからね。休暇でも取らない限り、そんな五日も出向けないことくらいわかっているはずだ」
「わかってるなら、最初から書かなければいいだろうが…!」
「……それは一日でも長くマヤと…、いやマヤたちと過ごしたいレイモンド卿の願望の表れだろうな」
「……は?」
気色ばんだリヴァイを横目にしてニヤリと笑みを浮かべたエルヴィンは、澄ました顔で話をつづける。
「うまく事が運んで願望が実現すればこれ幸いといったところであって、別に一泊でもいいのさ。マヤが屋敷に来さえすれば」