第26章 翡翠の誘惑
調査兵団に前日に届けられた招待状は、バルネフェルト公爵家の嫡男であるレイモンド・ファン・バルネフェルトからのものだった。
その内容は二点。父のバルネフェルト公爵が三兵団に毎年寄付している多額の資金とは別に、調査兵団にレイモンド卿名義で寄付したいとの申し出が一点。
もう一点は、資金提供の条件として一週間後に開催する舞踏会に、マヤ・ウィンディッシュ、ペトラ・ラル、オルオ・ボザドの三名を招待するというもの。
「……三兵団に寄付される多額の軍資金のなかでも、バルネフェルト公爵からの金額は群を抜いている。だが我が調査兵団は、その恩恵にあずかれない状態だ。公明正大な公爵は兵団全体に寄付し、その使途は兵団内で自由に決議すればよいという考えなのだが、残念ながら憲兵団は公明正大ではないのでね。兵団合同会議で寄付金の使い道を決定する… といっても形ばかりのもので、七割が憲兵団、二割が駐屯兵団、残り一割が調査兵団と決まっている…」
そこまで発言してエルヴィンは、会議室を見渡した。
リヴァイは腕組みをしながら微動だにしない。いつもどおり。
ミケは目を閉じているが、眠っている訳ではない。これも、いつもどおり。
ハンジは時折なにかぶつぶつとつぶやいている様子で、心ここにあらずだ。壁外調査における巨人捕獲の議案にならないとハンジは本腰を入れないので、これまた、いつもどおり。
ラドクリフはちらちらと壁の時計を見て落ち着かない。大概は眠そうにしているか、腹を空かせて落ち着かないかのどちらかなので、これも、いつもどおり。
……ふっ、すべてが… いつもどおりの通常運転だな…。
そう内心で軽く笑みを浮かべながら、エルヴィンはつづけた。
「今回のレイモンド卿直々の資金提供の申し出は、大きなチャンスだ。滞りなく条件を受け入れることが我々にとって有益であることは目に見えている。一度レイモンド卿からの寄付を受け、道すじができたならば、この先の寄付も期待できるからな…。したがってこの招待状は受けるつもりではあるが一つだけ…」
エルヴィンはあらためて、手にしている王都から届いた招待状に目を落とした。