第26章 翡翠の誘惑
「ひどいな、リヴァイ! 私はラドクリフと違って出ていきたがってなんかいないよ? 今ここにちゃんと残って君のしかめ面を見ている私に対しての一種の冒涜だね」
ハンジがこぶしを振り上げて抗議をする。
「……は? 今てめぇがここに居残っているのは、単に状況を面白がって見物したいだけだろうが。早く出ていけ、さっさと実験でもしやがれ」
「あれ? ばれてるんだ」
リヴァイに思いきり睨まれて、ハンジは後頭部をかきながら苦笑いをした。
「ハンジ、私にもばれてるぞ。会議中ずっと上の空で、計算式をブツブツつぶやきながら適当に挙手していたからな。会議を早く終えて実験したがっていたのは丸わかりだ」
そう合いの手を入れたエルヴィンに、すかさずリヴァイが突っこむ。
「おい… 今、適当に挙手したと言ったよな? やっぱりさっきの採決は無効なんじゃねぇかよ」
「いや、有効だ。上の空であろうが、適当であろうが、挙手は挙手。清き一票は賛成に投じられたんだ。もう決定事項なんだから、いい加減にあきらめろ」
「てめぇ、それでも団長か?」
「随分な言いぐさだね。さすがに聞き捨てならない。リヴァイ、お前こそ理不尽に決議をくつがえそうと無駄な努力をして、見苦しいぞ」
「……見苦しいだと? 俺は部下のことを考えているだけだ。お前みたいに軍資金至上主義ではないからな」
吐き捨てるようにリヴァイが言えば、エルヴィンもその太い眉を高々と上げて応戦する。
「……確かに私は資金調達に重きを置いている。それは認めるが別に “至上主義” なんかではないつもりだ。言うまでもなく部下のことは考えているさ」
「……んな訳ねぇだろうが。本当に考えているんだったら、あのクソ貴族のクソ夜会にガキたちだけで行かせるなんて思わねぇはずだ」
火花を散らしているエルヴィンとリヴァイ。
それをニヤニヤしながら黙って見ているミケ。
そして先ほどまで計算式で頭がいっぱいで早く会議室から出て実験に取りかかりたかったのに、今や目を輝かせてリヴァイを観察するのに忙しいハンジ。
会議室は様々な感情のるつぼと化している。
なぜ、このような状態におちいったのか。
事の発端は、一通の招待状からだった。