第26章 翡翠の誘惑
まん丸な顔をほころばせているラドクリフを、マヤはうらやましく思う。
「分隊長はポジティブですね」
「まぁな。そうでないと巨人と戦う調査兵団でやっていけないからな」
「あはは…。それもそうですね」
得体の知れない巨人、圧倒的な力を持つ巨人、どんどん散りゆく仲間の命。どうしたってネガティブにおちいる要素しかない調査兵団が、それでも人類の未来を信じて戦いつづけることができるのはポジティブ・シンキングがあってこそだ。
「薔薇の花言葉もな、花の色や本数で違ったりするんだ」
「そうなんですか?」
「あぁ。薔薇やキキョウのようにはっきりと条件… 色だったり本数だったり… が違うことで花言葉も変わるんだったら扱いやすいが、マリーゴールドみたいな同条件で意味が違うものは難しい。そういう場合は自分に都合よく解釈すればいいんだと俺は思う!」
「なるほど…。ところで…」
マヤはラドクリフが口にした “薔薇の本数で違う花言葉” が無性に気になる。
「薔薇の花言葉が本数によって変わるというのは、一本、二本、三本ってことですか?」
「そうだ。いいか、心して聞けよ? 一本だと “一目惚れ”、二本だと “この世界は二人だけのもの”、三本だと “告白”、四本だと…」
「ちょ、ちょっと待ってください。何本まであるんですか?」
「999本」
「えええっ! それ全部覚えているの!?」
驚いて、もう完全なタメ口だ。
「まぁな! ……だから心して聞けと言ったじゃないか」
「信じられない。さすが “花博士”」
「おい、それ、やめろ?」
「ふふ」
夜の花壇のかたわらで、ラドクリフとマヤの花言葉にまつわる会話はつづく。
ほんの少し時をさかのぼる。場所は幹部棟二階の会議室。
エルヴィンは一度は解散を告げたのだが、その命に従ったのは腹を空かしたラドクリフだけ。
いつもよりも目に見えて眉間に皺を寄せているリヴァイの反対に遭い、終わったはずの会議は延長を余儀なくされていた。
「いい加減にしないか、リヴァイ。もうさっき決は採っただろう?」
諭すようにエルヴィンは笑みを浮かべているが、リヴァイには逆効果だった。
「あ? あれは無効だろうが。早くメシに行きたいラドクリフと、同じくここから出ていきたいクソメガネの挙手が含まれているからな」