第26章 翡翠の誘惑
「……ありがとう。やっぱりマヤに話して良かったよ」
モブリットは穏やかに笑った。
「分隊長のことを意識するようになってから、なんとか気づかれないようにしてきたつもりなんだ」
聞いた途端にマヤの心に浮かんでくる。
……だだ漏れですよ、モブリットさん。
きっと顔に出ていたのだろう。すぐにモブリットは補足した。
「いや、ばればれだったかもしれないけどね。でも少なくともマヤの入団する前は…、意識し始めてすぐのころは、そんなにだだ漏れでもなかったはずだ。今から思うと、今ほど想いも強くはなかったしね」
「そうなんですか?」
「あぁ。分隊長の知らない顔を見て、どきっとして目が離せなくなってしまった。その最初の衝撃はすごかったけれど、でもそれだけだったんだ。その後、気持ちを知られないように意識して行動しているうちに、どんどん自分の中で想いが強くなっていって…」
「あぁ…、わかる気がします」
“想い” は自身の心の中で、どんどん大きくなっていくものだもの…。
マヤは深くうなずいた。
「だろう? わかってくれて嬉しいよ」
同意してくれたマヤに微笑みながら、モブリットは “すべてを話した訳ではないけどな…” と思っていた。
意識するようになってからしばらく経って、またハンジが入浴する日に部屋に泊まることになった。
それまでは異性として好意を持ってしまった感情にできるだけふたをして、表に出さないように努めて、そしてそれは上手くいっていた。
けれども。
ハンジの入浴した後の浴室に入った途端に、すべての理性がぶち切れてしまった。
あの全裸になるというもっとも無防備な狭い空間で、つい今までそこに、女性として意識し始めた相手もまた全裸でいたという事実が、強烈に襲ってくる。
もわっと自身を包みこんだ湿度の高い熱気が、ハンジの匂いそのもので。
瞬間的に下半身がいきり立ってしまった。
そんな状態の自分に驚愕し、呆然とする。
だが勃ってしまったものは仕方がない。
風呂場であることはこれ幸いと、愛おしい女の匂いの湯気に包まれて、めちゃくちゃに突き上げるところを妄想しながら処理をした。